ある活字中毒者の日記

       神は細部に宿る

 以前この日記で書いた水中カメラマン中村征夫さんは、奥尻島で津波に遭遇したことがある。「早く高台に逃げて、靴などいいから!」との宿のおかみさんの一声で、あやうく九死に一生を得たという。  
 
人間の日々のいとなみなど、大自然の前では儚いものだ。このたびの未曾有の大地震と津波。被災された邦人の中には、コツコツとお金を貯め、上司に頭を下げて有給休暇をもらい、やっと憧れの地に来た人もいるかもしれない。そんないじましい人間の思いなどおかまいなく、大自然は突然猛威をふるう。
 
知人で、アジア旅行が大好きな人がいた。50歳くらいの女性なのだが、旅はアジアに限ると言う。
「アメリカやヨーロッパなど行く気がしないわ」
「特にマレーシアはどこに行っても食べ物がおいしいの」         
そして彼女は、まとまった休みを取ると、せっせとインドネシアやマレーシア、タイ、ミャンマーなどを旅して周った。SARSが猛威をふるっていた時も確かアジアのどこかへ出かけていた。今、彼女とは音信不通となったが、どこぞの地をほっつき歩いているのだろうか。もしや被災してはいないだろうか。
 
私の周りには彼女のようなアジア旅行好きの人が多い。私はひそかに「中年深夜特急」と呼んでいるのだが、とにかく彼女たちは、たくましい。『自分探しの旅』なんて甘ったれた言葉から、もっともかけ離れた人たちだ。
ブランドや、風光明媚な観光地、高級リゾートホテルなんていっさい興味がない。ラブアフェアなんて噴飯ものだ。そしてやたらよく食う。ごちゃごちゃした市場が好き。言葉も分らないのにすぐ地元の人と仲良くなる。そして絶対お土産を買ってこない。
 
このたび被災に遭われた人たちは殆どが地元の方だろうが、海外からの旅行者も多い。普通の観光客、サーファー、スキューバダイバー、そして普通の深夜特急組、そしてわれらが中年深夜特急組もいるかもしれない。
 
どんな人にも自然災害はやってくる、個々の都合などおかまいなしに。それでも人間は、日々のいとなみを止めることはしないのだ
 
 

深夜特急〈2〉マレー半島・シンガポール

 運動神経ゼロなのに、スキューバダイビングのライセンスを持っている。昔「スプラッシュ」という映画を見、水中にたゆらぐトム・ハンクスと人魚を見ていいなぁと思ったのがきっかけだ。元々ダイビングには興味があったので、すぐライセンスを取った。 それから何度も海へ潜りに出かけた。

海中遊泳はとても楽しいものだったが、ダイビングは事前の機材の準備、運搬、メンテナンスが大変で(て言うか、単に私が怠け者なだけ。他のダイバーの方は嬉々として準備をされてた)、また色々な海に出かけるとなるとお金もかかるし、体力もいる。ビンボーで若くもない私は、そのうち海から遠ざかっていった・・・。     ここ数年、潜りには行ってないが、時々海中遊泳をしている夢を見てドキッとする。本当は潜りたいのだ、ゆったり水の中を。

さて、ダイビングに行かなくなって久しいが、水中写真を見るのは大好で、雑誌などよく覗いている。特に注目しているのは水中カメラマン中村征男さんの作品だ。彼の撮るさかなたちはとても人間的で可愛い。そして中村さんの書くテキストも作品に負けず劣らずユーモアがあって楽しいのだ。

以前中村さんは、桜井よしこさんが司会をしていたニュース番組「きょうの出来事」によくゲストで出演し、さかなの話などしていた。普段はまなじりを決して、上品な口調で世相を斬っている桜井さんだが、このコーナーの時だけは、とても穏やかな表情で、楽しそうに中村さんとお話をしていたように思う(会話がかみ合わないところもあったが)                                      そして中村さんといえば、なんかいつもより緊張していて、まるで優等生の女の子に出会って、ドギマギしている野生の少年という風情だ。                                      テレビをぼんやり見ながら思ったものだ。「この2人、結婚すれば良いのに」 中村さんのような海の男と結婚すれば、さぞや桜井さん仕事のストレスも癒されるんじゃないかな。年齢も近いみたいだし・・・第1、絵になると思うけど。野生的な水中カメラマンと、世論を斬るクールー・ビューティーな女性の恋なんて・・・。

・・・すいません、妄想はこれくらいにして、来年は絶対海に行きます。美しい海で、半日のんびりシュノーケリングをして目一杯現実逃避してきます!                              それではみなさん、ごきげんよう・・・。

  

 

 

 

                                
日本の危機 (2)

風景

イヴの夜である。街を歩いていると、さまざまなクリスマスソングが流れている。レトロ2今年は特にワム!の「ラストクリスマス」がよく流れているように思う。ドラマの影響か?

ところで「ワム!」と聞くと私はいつも漫才の「ツービート」を想い出す。タケシのマシンガントークに圧倒されながら、一生懸命あいづちのタイミングを計っていたあの相方は、今なにしているんだろう。そして、 作詞・作曲・ボーカルついでにカミングアウトまでしてくれたジョージ・マイケルのとなりにいた人、名前なんだっけ?

今の時期、私はクリスマスより正月の準備、おせちの用意で頭がいっぱいだ。その上まだ年賀状も出してない。大掃除もまだだ。お金もおろさなくては。な訳で、クリスマスの話題はスルーします。第一、最近は生クリームのケーキひと切れ食べただけで胸焼けしてしまう。年は取りたくないもんだ。

おせちといえば、池波正太郎さんの「食卓の情景」に出てくるおせちは美味しそうだ。老母が作るなんの変哲もないものだと池波さんは謙遜しているが、味がしみてお酒の肴にぴったりな気がする

料理は下手だが、おせち料理を作るのは大好きだ。元旦にいただくのを考慮に入れて今から少しずつ準備をする。そして時間を味方につければあら不思議、おいしいおせちが出来上がる。

のろまの私はリアルタイムでテキパキと食事の準備をするのは苦手だが、おせちのように時間をかけて味をしみこませる、味をつくる料理は好きだ。きっと池波さんの年老いたお母さんもゆっくりと心を込めてつくったのだろう。

それに比べると幸田露伴が娘、文さんに準備させたお正月料理はすごい。要求のあまりの厳しさに、文さんは正月なんて無ければいいのにと願っていたらしい。でも必死で父の要求に応えようと奮闘している姿は心を打たれる。

晩年文さんは、便利な電化製品がたくさん出てきた事について  「これで女の自由な時間が出来る」と大変喜んでいたそうだ。

池波正太郎さんのお母さん、幸田文さんどちらも明治生まれ。冷蔵庫も炊飯器もガスもない時代、孤軍奮闘していた明治の女たちに思いをよせるのである。

 

 

 

  


食卓の情景
父・こんなこと

花イギリス映画が好きである。          貴族たちが登場する、格調高い文芸物が好きだし、サッチャー政策下、炭鉱不況・失業・貧乏ヒーヒーものも面白い。       ひねったホラーも味があるし、アバンギャルドでポップな青春物もいい。

なわけで、ひと昔前話題になった英国美青年ブームにも当然乗った。 ダニエル・ディ・ルイス、ヒュー・グラント、ルパート・エヴェレットら多くのスターが輩出されたが、その彼らの多くが今も第一線で活躍しているのは嬉しいことだ。やはり美貌だけではなかったってことか。

「アナザー・カントリー」を見に行ったきっかけは、英国のトラディッショナルファッションに興味があったからだ。確かに俳優らが身にまとっている服装は見てて楽しかった。シックなベストやセーター、クリケットで着るスポーツウェア、礼装のタキシードやベスト。ルパートの少し崩れた着こなしも良い。

でもこの映画で白眉だったのは、ルパード演ずるガイ・ベネットの親友、トミー・ジャドを演じたコリン・ファースだ。他の俳優と比べ、地味な印象のコリンだが、この映画では左翼青年ジャドを見事に演じている。

彼はパブリックスクールの生徒にもかかわらず、共産主義に傾倒し、寮が消灯になると、こっそり懐中電灯でマルクスを読んだりしている。だが自分の主義を人に押し付けるような事はしない。  ガイ・ベネットが恋人(もちろん男性)に夢中になったり、学校代表になろうと躍起になっているのを、多少皮肉をまじえながらも、ほほえましく見守り応援している。物静かで思いやりがあって、でも芯の強い男だ。                                私が好きなシーンは、ニットのベスト(セーターかな)を着て眼鏡をかけたジャドが本を読んでいるところ。決して美少年ではないが、若々しい知性溢れた雰囲気に圧倒された。

結局ガイ・ベネットは陰謀のせいで学校代表になれず、出世の道を断たれ、その復讐のためソ連のスパイになったということだが、私は違う解釈をしている。ガイ・ベネットは本当はジャドが好きだったのだ。その数年後スペイン内戦で死亡したジャドに変わり、彼は共産主義に入っていったのだと信じている。男であろうと女であろうと、ホモだろうとノンケだろうと、優れた人物は愛されるのだ。肉体的かプラトニックかは別として。

この役を演じたコリンは、出演作品が日本で余り上映されなかったこともあり、しばらく音沙汰がなかったが、「高慢と偏見」でまた注目され「ブリジッド・ジョーンズの日記」で再び人気を集めた。       今の渋いコリンも大好きだが、やはり私は若き日の知性溢れたトミー・ジャド役のコリンが忘れられない。そして、その一番美しい映像を見られた事に今も感謝している。

※「アナザー・カントリー」をご存知ない方、さっぱり意味がわからないと思います。ごめんなさい。        

                                                                                             


アナザー・カントリー

こっこ今年の夏、いとこの女の子が、石垣島へ嫁に行った。だんなになる人とは沖縄で知りあったのだが、彼のお母さんが老人性痴呆症になり介護のため故郷の石垣島に帰ので、一緒についていったのだ。来年には子供も生まれるという。                いとこは私と違い、明るくて賢い子だから、きっと家族や島の人たちともうまくやっていけるだろう。幸多かれと祈らずにはいられない。

ずっと「沖縄」に憧れている。まだ一度、それも社内旅行で行ったきりだが、それでも沖縄のたたずまい、町の雰囲気、人々の表情に強く引かれた。九州に住んでいるのだから、沖縄に行こうと思えば行けるのだが、あまり憧れすぎて妙にためらってしまう。

こっこは沖縄の女の子だ。目鼻立ちのはっきりした顔、きつい沖縄弁。めったにテレビには出ないが、たまに音楽番組に出演する時などは、ちゃんと受け答えが出来るのか、何かとんでもない事をしでかさないか、いつも心配でハラハラしていた。そして予想通り大ボケをかましてくれる。

こっこの声は歌詞の生々しさとは違いクリアで可愛い。そして良く練った凝った音作りをしている。これは編曲のネギさんのお手柄だろう。時々nirvanaやオアシスそっくりの楽曲もあったりして、まあこれはお遊びか。                             

もしこっこの声や楽曲がプリミティブなものだったら、こんなに惹かれたりしなかっただろう。今風の音そしてさらりとした歌声だからこそ、歌詞の残酷さが際立つのだ。

今こっこは沖縄に住んでいる。ときどき地元でごみ拾い運動をしているらしい。そしてお母さんになっている。

憧れの沖縄。母の胎内のような居心地の良さ温かさ。妄想だけがどんどん膨らんでいく。だから沖縄に行けないのか。

 


Switch (Special edition)

サンセット先日、仕事でお世話になっている方(70歳位の男性)に手編みのマフラーをクリスマスプレゼントとして差し上げた。目落ちの穴だらけのいびつなマフラーを手にその人は「大切に使わせてもらうよ。どうもありがとう」と言ってくれた。

そ、そんなもったいない。私のようなつまらない人間にそんな温かい言葉をかけてくれるなんて。本来ならあなたと私は、こんなに対当に話せるような立場ではないのに。                        最近、人から温かい言葉をかけてもらうと、嬉しさよりも申し訳なさのほうが先に立ってしまう。わたしようなものにもったいない・・と。 人間が謙虚になったのだろうか。でもその一方、ささいな一言で落ち込んで食欲なくしたり、夜寝られなくなるんだから世話が焼ける。更年期か?

神谷恵美子さんもよくご主人や2人の息子さんのために、編み物をしていた。また手作りのケーキやドーナツもどっさりこしらえていた。そう書くと、家事好きな奥さんって感じだが、この人はただの奥さんではない。1914年うまれの美恵子さんは、英語・フランス語に堪能で、津田塾からコロンビア大学、東京女子医専を経て東大医学部精神科に勤務し、のちらい病患者のため長島愛生園に通う。戦後しばらくは文部大臣の父の手伝いで翻訳・通訳の仕事。当時の次官から「国家のために美恵子さんを拝借させて頂きたい」と言わしめたほどだ。

これ程の才女でありながら「神谷美恵子日記」を読むと、彼女はいつも焦燥感にさいなまれている。キュリー夫人の伝記を読み、自分の勉強の不甲斐なさを嘆いたりしている(そんなぁ、キュリー夫人と比べるなんて)。家事や子供の世話のため、勉強時間が足りないのに焦りながらも、手抜きはしない。自分の勉強のため子供を犠牲にしているのではという罪悪感も持っている。       

初めは凄い女性だなと思ったが、だんだんその態度がハナについてきた。あなたのような女性がいつも焦燥感に悩まされ、罪悪感を感じるのなら、私ら俗人はどうなるんだ!と。            門地の高い家に生まれ、今更誇らしく思うこともないほど矜持が高いのか、それとも本当に謙虚な人柄なのか。            写真で見る美恵子さんは、おっとりして優しそうだ。やはり生まれついての天性なのかもしれない。

晩年、家族からホダカに連れて行ってやると言われ、病床の彼女は「もったいないことだ」とありがたさのため泣きそうになる。ホダカに行ったかどうかはわからない。その3ヶ月後、恵美子さんは永遠の眠りについた。                

                           
神谷美恵子日記

先週、FMラジオの音楽番組で司会の渋谷陽一が、今年を代表するアーティストとして、エミネム、 ビヨーク、グリーンディを挙げているのを聞き、ドキッとした。
グリーンディはそうでもないが、残りの2人、エミネムとビヨークは私が常日頃気になっているアーティストであり、且つそのことを秘密にしている。自意識過剰かもしれないが、エミネムとビヨークが大好きだと人に言うのは恥ずかしい。多分それだけ入れ込んでいるからだろう。だから人から「好きなアーティストは?」と聞かれると「ええ、まぁノラ・ジョーンズとか」と言ってお茶を濁している今日この頃である。
 
この2人には共通点が多い。1、どちらもマスコミ嫌いだが、それをうまく利用しているところがある。 2、プリミティブな精神を持ちつつ音楽的には実験的なもの、新しいものをいち早く取り入れている。 3、映画で主演している。
 
特に3番、2人とも演技が上手い。とても自然だ。彼らの個性を上手く引き出した監督の手腕が大きいのだろうが、やはりナチュラルな演技には瞠目する。
 
エミネムに関してはマッチョな兄ちゃんというイメージをもっていたが、「8Mile」では華奢で繊細で、内に怒りを秘めた青年を見事に演じていた。あの腕のタトゥーはどこに消えたんだ?
恋人と別れ金もなく、バトルで恥をかき、ママのトレーラーハウスに戻ればママは彼の高校の先輩とファックしている。こんな最悪な設定でありながら彼には不思議な清潔感がある。そして色気も。
 
この映画では恋人とのラブシーンもあったが、それより母親役のキム・ベイシンガーとの絡みの方がドキドキした。特にエミネムが酔っ払ったキムを抱き上げて寝かせようとするシーン、思わずそのまま抱きくずれて、母子相姦まで行きそうだった。キムもエミネムもセクシーだし。
 
考えて見れば、エミネムはクスリはやらない(たぶん)。奥さんと、もめてはいるが、ロックスターにありがちな、苦労を共にした糟糠の妻を捨てて若い女に走るような事はしていない。そして昔の音楽仲間を大事にしている。なんて律儀な奴だ。きっと税金なんかもちゃんと納めているのだろう。
彼のリリックにある卑猥な言葉も、小学生の男の子が「ウンコ!」「チンチン!」などと言い合っているような無邪気さを感じる。
 
そう、エミネムには、これからもずっと無邪気な反逆者でいてほしい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
エミネム

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