サンセット先日、仕事でお世話になっている方(70歳位の男性)に手編みのマフラーをクリスマスプレゼントとして差し上げた。目落ちの穴だらけのいびつなマフラーを手にその人は「大切に使わせてもらうよ。どうもありがとう」と言ってくれた。

そ、そんなもったいない。私のようなつまらない人間にそんな温かい言葉をかけてくれるなんて。本来ならあなたと私は、こんなに対当に話せるような立場ではないのに。                        最近、人から温かい言葉をかけてもらうと、嬉しさよりも申し訳なさのほうが先に立ってしまう。わたしようなものにもったいない・・と。 人間が謙虚になったのだろうか。でもその一方、ささいな一言で落ち込んで食欲なくしたり、夜寝られなくなるんだから世話が焼ける。更年期か?

神谷恵美子さんもよくご主人や2人の息子さんのために、編み物をしていた。また手作りのケーキやドーナツもどっさりこしらえていた。そう書くと、家事好きな奥さんって感じだが、この人はただの奥さんではない。1914年うまれの美恵子さんは、英語・フランス語に堪能で、津田塾からコロンビア大学、東京女子医専を経て東大医学部精神科に勤務し、のちらい病患者のため長島愛生園に通う。戦後しばらくは文部大臣の父の手伝いで翻訳・通訳の仕事。当時の次官から「国家のために美恵子さんを拝借させて頂きたい」と言わしめたほどだ。

これ程の才女でありながら「神谷美恵子日記」を読むと、彼女はいつも焦燥感にさいなまれている。キュリー夫人の伝記を読み、自分の勉強の不甲斐なさを嘆いたりしている(そんなぁ、キュリー夫人と比べるなんて)。家事や子供の世話のため、勉強時間が足りないのに焦りながらも、手抜きはしない。自分の勉強のため子供を犠牲にしているのではという罪悪感も持っている。       

初めは凄い女性だなと思ったが、だんだんその態度がハナについてきた。あなたのような女性がいつも焦燥感に悩まされ、罪悪感を感じるのなら、私ら俗人はどうなるんだ!と。            門地の高い家に生まれ、今更誇らしく思うこともないほど矜持が高いのか、それとも本当に謙虚な人柄なのか。            写真で見る美恵子さんは、おっとりして優しそうだ。やはり生まれついての天性なのかもしれない。

晩年、家族からホダカに連れて行ってやると言われ、病床の彼女は「もったいないことだ」とありがたさのため泣きそうになる。ホダカに行ったかどうかはわからない。その3ヶ月後、恵美子さんは永遠の眠りについた。                

                           
神谷美恵子日記