カミュ著「異邦人」の主人公ムルソーは、抱きしめたくなるほどいとおしい、バカ正直でタイミングの悪いやつだ。彼は、もっともらしい(しかし意味の無い)言葉を吐き出す、いやらしい大人たちとは対極にある。

世間は「定型化」からはずれた人を許さない。たとえ形だけでもママンが死んだ時には悲しそうにするべきだった、葬式のすぐ後、海水浴に行ったり女と遊んだりするべきではなかった。「太陽のせいだ」などとわけわからん事を言うべきではなかった。べきべきべきの嵐。

この小説は最初ゆっくりゆっくりスタートし、途中でだんだん加速して、クライマックスでいきなり終わってしまう。たとえれば全速力で走っていて、崖の上ぎりぎりでストップした感じ?もし未読の方がいたら、最初は少しかったるいかも知れないが、最後まで読んで欲しい。きっとカタルシスを感じる筈だ。

それにしても、ムルソーが海で女とたわむれるシーンの美しいこと。光り輝く太陽、海、空、あまりに美しすぎて逆に彼が死に向っている事を予感してしまう。いや彼だけの死ではなく、今、太陽の下で若さと美しさを謳歌してるすべての人にも、やがて永遠の死が訪れる、海や青い空とたわむれるのも束の間のことなんだと悟ってしまう。そんなそこはかとない空虚感がこの小説にはある。

自分はまだ「異邦人」を充分読み込んでいないので、多少理解不足だと思うが、これから何度もこの本をひもときながら、ムルソーとの束の間の逢瀬を楽しみたい。

                                                                            
異邦人


異邦人