自然自分がどうしようもない怠け者のせいか、働き者がたくさん出てくる物語が大好きだ。特に高村薫氏の小説に出てくる男たちはよく働く。刑事、守衛、アイルランドのテロリスト、政治家の運転手、ほんとに寝る時間があるのかと心配になるほどだ。

例を挙げると「地を這う虫」に出てくる元刑事は、朝8時から夕方6時まで倉庫会社で働き、終わると歩いて薬品会社に行き、そこで夕方7時から朝7時まで守衛の仕事。2時間ごとの仮眠で睡眠は足りてるらしい。しかもこの男は倉庫と薬品会社の間を通うのに、わざとジグザグに歩いて、住宅や花木、電柱の張り紙、車など様々なものを細かく見て周り、目に付いたものがあればノートに記録するというまめな男だ。そのまめさのおかげで、事件に巻き込まれるのだが・・・。

他に男たちに共通なのは、食べるものに無頓着なこと。たとえば「黄金を抱いて飛べ」に出てくる幸田は、箱寿司と牛乳を買って仲間のモモと分け合って食べる。自分はこの場面が一番好きだ。

たぶん幸田一人だったらアンパンと牛乳ですませたかも。でもモモがいるし何か栄養のあるものを食べたほうが、と考えて選んだんだよね、箱寿司と牛乳。確かに合わないかもしれないけど、そこに幸田のぶっきらぼうの愛が感じられてじんとするのだ。

昔「フレンチ・コネクション」という映画で、主役の刑事が寒空の中、ピザを不味そうに食いながら、高級レストランで食事をしている容疑者を見張っているシーンを見たことがある。ああいう感じ、いいなぁ。食い物なんか腹の中に入りゃいいのさ、そんなことよりまず仕事さ。

これを他人から強制されてするのは御免だが、自ら求めてするのであれば、こんな楽しいことはない。実際、高村の小説の男たちが羨ましい。高級レストランで食事をする男より。