ごくたまにだが、レンタルビデオで思わぬ拾い物!をすることがある。この「暗い日曜日」もその1つだ。「暗い日曜日」とはハンガリーのピアニストが作曲し、これを聴いて自殺者が続出したため、発禁になったこともあるといういわくつきの曲で、(そのピアニストも後日自殺した)この映画はそれを元にした物語である。

暗い映画を想像していたのだが、良い意味で裏切られた。物語はミステリー仕立てになっており、見終わった後、思わぬ爽快感を味わうことになる。

まずブダベストの街並みが美しい。ドナウの真珠と呼ばれ世界遺産にもなった川や鎖橋、王宮はもちろん、歴史を感じさせるくすんだ色合いの建物や家並み。中年男ラズロの経営するレストランの落ち対いた内装やインテリアなど、どのシーンを切り取っても絵になる。

次に主人公イロナの何と美しいこと。見ようによってはかなりエゴイストでわがままな女だが、まぁあれだけ美人だったら許されるだろう。彼女のブルーを基調としたファッションもシックで素敵だ。それから恋人のラズロ。ちょっとトカシキ君に似てるのが気になったが、洒脱で粋なユダヤ人。そして名曲を作ったピアニスト青年との三角関係。この3人に更に、ドイツ人の青年が絡んでくる。時代は第二次大戦前、ナチスドイツが台頭してきた時期だ。

このドイツ人のハンス、最初はいつもライカを肩に下げ、イロナに振られてしょぼーんとしていたうぶな青年だったのに、ナチの拡大と共に段々人格が変わっていく。制服姿が似合いすぎて恐い。

ハンガリーは世界で一番自殺率が高いと聞いた事がある。本当だろうか。でも自殺が多いということは、それだけ人生と言うものを真剣に考えているからではないか。少なくとも自殺を考えたことがある人の方が、ない人よりも人間的に誠実な気がする。

ヨーロッパの美しい街ブダペストで繰り広げられる大人の恋物語。みずから死んでいく人もいれば、たくましく生きのびて目的を遂げる人もいる。どちらも誠実なハンガリー魂である。