犬昨年惜しくもエドガー賞は逃したが、桐野夏生著「OUT」は海外で高く評価されたようだ。よかったよかった。

この作品では、日本のいわゆる主婦パートの実態が浮き彫りにされている。

主人公は毎晩深夜12時から5時半まで、コンビニ弁当工場で働いている。真夏でも冷え切った工場、不恰好な作業着と男女の区別もない更衣室、5時間半立ちっぱなしの重労働、若い管理職の男からバカ呼ばわりされ、トイレに行く自由もない。

そんな過酷な仕事をして、一日の報酬は4,675円ぐらいか(時給850円として)。月20日働いても93,500円。主婦だったら社会保険料は払わなくていいが、独身の場合それから国民健康保険と国民年金を払うと、残りは70,000万以下だ。もちろんボーナスも退職金も有給休暇もない。これがパートタイム労働の実態なのだ。

パートタイム労働の辛さは低賃金や保障のなさだけではない。人間の尊厳を傷つけることだ。例えば販売の仕事の場合、パートタイマーには更衣室が与えられないことが多い。大抵は、ダンボールやビニールハンガーにかけた商品が置いてあるストックルームでこそこそと着替えてバックを置く。自分の座る椅子さえない。昼食以外は座ることは許されないのだ。

もちろんデパートや老舗のお店など、キチンと社員用の設備が整っているところもあるだろうが、零細な店舗は大体こんな感じだ。

月100時間のサービス残業をする月収30万の正社員と、上記の弁当工場パートタイムの仕事とどちらを選ぶかと聞かれたら、絶対正社員を選ぶだろう。仕事は大変かもしれないが、正社員には少なくとも自分の机と椅子があり、人間としての尊厳が保たれている。

「OUT」の主人公雅子は、同僚の殺人の死体処理を二つ返事で引き受ける。割に合う仕事ではないのに。そこには、同じ仕事場で傷つけられたもの同士の、部外者には分からない連帯感があったのだろう。

そう、彼女たちは社会構造のひずみの下であえぐ、戦友同士なのだ。

 


柔らかな頬 (下)
アウト 英文版〈OUT〉