子供の頃は、だれしも「大人になったらパイロットになりたい」「野球選手になりたい」といった漠とした夢があったはずだ。だがそれを成就させた人は少ないと思う。ほとんどは成長するにつれ現実に折り合いをつけ、それなりの道を歩いていく。

 ドイツの片田舎に住む、ある牧師の少年は夢見がちな子供であった。古代史好きの父の影響でギリシャ神話に興味を持ち、買ってもらった本『子供のための世界歴史』を読み、トロヤの存在を信じ、大きくなったらそれを発掘するんだと語った。

父親や周りの人はトロイ少年の空想好きを笑ったが、幼なじみの少女ミナだけは彼を信じ、やがて幼い愛がめばえ、将来いっしょになってトロヤを発掘しようと約束する。

だが少年に数々の不幸がおそいかかる。母が死に、愛するミナと離れ離れになりやがて家は破産。14歳で食料店の小僧となり、その後さまざまな仕事につき苦労を重ねた。

だが貧しい生活の中でも、彼はミナとの約束を忘れなかった。忙しい仕事の合間も、常にトロヤのことを思い、絶え間ない努力を重ね、たくさんの語学をほぼ独習でマスターする。

だが運命は過酷だった。やっと事業家として成功し、ミナに結婚を申込もうとした時、ひと月前に彼女は他の男性と結婚したことを知る。

この少年はいうまでもなく、トロヤの遺跡を発掘した、ハインリッヒ・シュリーマンである。

彼の努力と情熱には、ただただ圧倒されるが、私は、その行動の目的はただひとつ、初恋の成就にあるのではないかと思う。

幼い頃、周りから変わり者と笑われていた彼を信じ、一緒に夢を語ったミナ。とうとう結婚することは出来なかったが、幼いころ2人で語ったトロヤへの夢と情熱、その宝石のような想い出を彼は生涯忘れなかった。

彼の偉大な功績は、彼の初恋物語でもあるのだ。

 

 
古代への情熱―シュリーマン自伝