以前一年ほど東京に住んでいたことがある。かの地に来て、まず驚いたことは「東京人ってなんて行儀が良いのだろう!」

電車や地下鉄のホームではメンズクラブ子供でさえ整然と並んでいる。私の住む九州では、まずありえない光景だ(今は、だいぶ良くなったが)

彼らを見てわかったこと。東京人はおおむね服装も地味で、言葉遣いも穏やか、そして感情の起伏が少ない。つまり“大人”なのだ。

怖いもの知らずで”子供”である地方人と、慎み深い東京人が対決したら勝負は目に見えている。芸能界に福岡など地方出身者が多く、案外東京人が少ないのも道理だ。

さて、浅田次郎著「霞町物語」は、東京人の、それもごく限られた地域の限られた時期にだけ花開いた青春物語である。高校生の彼らは、放課後、当り前のように六本木や青山、銀座の盛り場で遊び、女の子をナンパし、車を乗り回した。家は高度成長期で裕福。私のような田舎者には垂涎の、夢のような生活がそこにはあった。

おしゃれは主にコンテンポラィー、これがよくわからない。私の高校時代はIVYが主流だったが、田舎ものの哀しさで実はどんなものか知らなくて、男子は雑誌「メンズクラブ」女子は「MCシスター」を読んで参考にしたものだ。コンポラは、どうやらIVYファッションより前、みゆき族より後のスタイルらしい。

地方人が増えるにしたがって、町は荒れケバケバしくなる。いさかいを嫌う彼らは、抵抗することもなく、1人減り2人減り、だんだん消えていく。

あまり自分を主張しない、そして田舎ものがどんな素っ頓狂な行動をしようと、笑って(もしくは諦めて)受け入れてくれる、そんな彼らがいたから、“TOKYO”は世界の大都市になりえたのだ。

やはり東京人はふところが深い。

    


霞町物語