ヒロインは、コメディエンヌとしても高い評価を得ているドリュー・バリモア、その恋人役に、これまたアメリカを代表するコメディアン、アダム・サンドラー。そして、「ロード・オブ・ザ・リング」のサム役を好演したショーン・アスティンや、「ブルース・ブラザーズ」のダン・エイクロイドなどがしっかりわきを固めている。
舞台は陽気で美しい島ハワイ。のどかで明るい人々たちが織りなすドラマの中心は、『前向性健忘症』という深刻な病を背負った女性とその家族、恋人の苦悩の話である。
そう、小川洋子さんの小説で、今上映中の「博士の愛した数式」の博士と同じ病気である。交通事故に遭い、それ以降新たな記憶を保持することができなくなったのだ。彼女の場合、一晩たつと前日のことをすべて忘れてしまう。
さて、私が始めてこの病気の存在を知ったのは、今から15年ほど前、
NHKテレビスペシャル「驚異の小宇宙 人体 脳と心 〜記憶〜」を見てからだ。
その番組に出ていた白人の男性患者は、あることがきっかけで、新しい事が記憶できない病気にかかったのだが、とにかく彼の周りはメモがいたる所に張られ、日記帳には細かな行動がぎっしり書かれてある。そうしないと、食事をとったことさえわからないから。
何より悲劇なのは、彼がその病気になる直前、母親といさかいを起こしており、つまり彼は、常に母親に対してネガティブな感情のまま、生き続けなければならないのだ。仲直りができない。これは結構つらい。
話は戻って、「50回目のファーストキッス」の主人公の女性は、それに比べるとかなり幸せかもしれない。彼女が事故にあったのは大好きなパパの誕生日の日曜日、楽しみにしてたパイナップル狩りの日だった。だから彼女の中では、毎日がパパの誕生日であり、楽しい日曜日なのだ。
心優しい父親と弟は、彼女に合わせ、お膳立ての生活をしている。だが、いくら四季のない常夏のハワイとは言え、父と弟の苦労も限界に来ている。そこに現われたのがアダム・サンドラー扮する獣医だ。
さて、私は、恋人よりも、彼女の父と弟に感情移入してしまった。娘を姉を、愛しているがゆえに、恋人の存在を脅威に感じ、それでも彼女の幸せを考え、思い悩む姿にはじわ〜と来た。
そして物語の最後、「う〜ん、そう来たか・・・」と、思わずうなずくラストシーンであった。
愛と行動力(これが大事!)、優しさ・明るさがあれば、すべてが解決できなくても、病気と寄り添いながらも幸せになる事が出来るのだ。
多少、楽観的過ぎるかもしれないが、明るく前向きな人々の姿には、心がほっこり温かくなった。ハワイっていいな。