以前ラジオで、ロック評論家の渋谷陽一氏が、イギリス俳優、ヒュー・グラントの新作映画について語っていた。
なんでも80年代の、ポップアイドルデュオの片割れがヒューの役で、相方は今やトップスターなのに、彼の方はすっかり世間から忘れ去られ、「あの人は今」的存在になっている。
だがそんな彼に、ある日、起死回生のチャンスが訪れる・・・という話なのだが、渋谷氏が「まるで『ワム!』のジョージ・マイケルの片割れの人みたいですね〜」と言ったのには笑った。
だが、音楽評論家にも名前を失念されている『ワム!』の片割れの人の立場は・・・・(ちなみに彼の名前は、アンドリュー・リッジリーでした)
さて、その映画『ラブソングができるまで』を観た。
冒頭から、いきなりキッチュな80年代プロモ映像が映り、20代のヒュー・グラントがタイトな衣装で腰を振っている。
いや46歳のヒューが20代のわけないのだが、ヒューの、この名人芸とも言える軽さにはたまげた。
だが映画を観ているうちに、この軽さが重々しく心にのしかかってくる。
ヒュー演ずる元ポップスター、アレックスは、今や遊園地などのイベント巡業をして口に糊している。観客は、20年前のアイドルの幻を求めているおばさんたちばかり。
たまにテレビのオファーが入り喜んで行ってみると、元アイドル対抗ボクシング大会とかだったり。
そして時々向けられる、薄笑い、軽蔑の眼差し。
惨めである。心中察するに余りあるが、彼は表面的にはいつも軽やかで明るい。つまらぬプライドなど何の役にも立たぬ事も知っている。
やがてひょんな事から、現トップアイドル(今でいえばブリトニー・スピアーズみたいな子)から作曲を依頼される。
そして、詩の才能のある女性、ソフィと知り合ったアレックスは、彼女と共に、ラブソングを創りはじめる・・・・・。
お互い過去とばかり向き合っていた2人。
「過去にこだわり、苦しむのは、実は新しい冒険が怖いから」
思わぬ言葉にドキっとしたり。コメディだと思って油断すると足元すくわれそう。
そんな訳で、この作品を今は亡き「ワム!」の片割れ、アンドリューに捧げます(つかまだ死んでないって!)