ある活字中毒者の日記

       神は細部に宿る

2009年02月

主のいないオスカー像

『おくりびと』『つみきのいえ』受賞で例年になく盛り上がった今年のアカデミー賞授賞式だが、私の関心はただ一つ、故ヒース・レジャーが助演男優賞をとれるかどうかだった。

思えば彼の名を記憶するようになったのは2005年。

ヒース・レジャーアン・リー監督作品『ブロークバック・マウンテン』での、ヒース演じる無学で不器用な同性愛者イニスの悲しみは、今だに私の胸に残っている。

その年、彼はアカデミー主演男優賞にノミネートされたのだが惜しくも受賞は逃した。相手が「カポーティ」のフィリップ・シーモア・ホフマンだからまぁ仕方ないか。

でも彼は若いし(当時26歳)、才能もあるからそのうちまたチャンスもあるだろうと思っていた。

だが昨年の1月22日。28歳の若さで急死した。

その半年後、映画館で見た『ダークナイト』のジョーカーに打ちのめされた。

そして今年のアカデミー助演男優賞受賞式。

「受賞はヒース・レジャー!」と発表の瞬間、ニヤリと笑い「当然だろ」と言わんばかりの大きな拍手をおくっていた同じくノミネートのマイケル・シャノン(『レボリューショナリー・ロード』で怪演)。

そばでは、やはりノミネートのフィリップ・シーモア・ホフマンが拍手を送っている。

祝福と哀悼と悔しさの入り混じった彼らの表情に、ああ、まさに名俳優たちだなと思う。

今年のアカデミー賞。大変盛り上がったけれど、終わってみれば、悲しみだけがつのってくるのはなぜだろう・・・。

オスカーおめでとう

 

 

 

 

 

さんざしはママの味


今、浅田次郎氏の『蒼穹の昴・全4巻』を読んでいる。今2巻目。

大変読みやすくて面白いのだが、この「読みやすい」というのがくせものだ。

この人の作品は口当たりがよく、読んでいる間は熱中するが、読み終えてしばらくすると内容を忘れている場合が多い。

例えば吉川英治版『三国志』は古文調で注釈も多く、読むのに骨が折れたが、今でも滔々とした黄河の畔に立つ劉備玄徳の姿を、生き生きと思い返すことができる。

吉川英治が重い剛速球なら、浅田次郎はスピードは速いが球質が軽いのかな、て、浅田次郎は星飛馬の大リーグボールか。

それはさて置き『蒼穹の昴』とは、中国清朝末期、貧しく糞拾いで生計を立てている10歳の少年春児と、幼馴染の兄貴分で科挙の試験を受ける青年分秀が、やがて袂を分かち、宿命によってそれぞれの覇道を歩むというスケールの大きい歴史小説だ。

しかし、瑣末なことに目が行く私は、1巻に出てくるお菓子『さんざし』が気になった。

文秀の科挙の試験に付き添って北京に来た春児は、胡同で、ある少年と知り合いになる。彼は身売りされて来たらしく、やがて宦官にされる運命である。

春児は口に頬ばったさんざしの糖胡蘆(タンフル)を少年にも舐めさせ、やがて口移しにそれを奪った。

これはもとより腐女子の喜びそうな同性愛的シーンではなく、甘いものが貴重だった時代、単純においしい飴を友達にも食べさせただけの話なのだが、「さんざし」と聞いて思い出すのは、映画『さらばわが愛 覇王別姫』である。

覇王別姫京劇の女形スター、程蝶衣の少年時代。京劇養成所での、あまりに厳しすぎる稽古が嫌になり、友達と一緒に脱走する。

その友達は常日頃、「将来有名になったら毎日砂糖づけのサンザシを食べるんだ」と公言していた。

2人は念願のサンザシを食べ、街でやっていた京劇の舞台に感動して涙をポロポロ流し、

「サンザシもたっぷり食ったしもう思い残すことはない。養成所に戻ろう」

屋台のさんざしと決心したのだが、その後、友達は口一杯にサンザシをほおばったまま自殺する。

映画の字幕では「砂糖づけのサンザシ」と表記されていたが、それだとザボンの砂糖漬(九州名物)みたいだ。

映像で見る限り艶々とした飴玉で、竹串に刺して屋台で売られている。どちらかというとりんご飴みたいな感じ?

調べてみたら、バラ科サンザシ属の植物で、その果実に飴をかけたものらしい。

蜜でコーティング清朝末期の貧しい少年でも買えるのだから高級ではないが、甘味に飢えていた彼らにしたら、最高のお菓子だ。

『蒼穹の昴』も『さらばわが愛 覇王別姫』も、どちらの少年らもその後、過酷な運命が待っていた。

さんざしの甘味は、ほんのひと時の至福の瞬間だったのだろう。

市販のもの、なんかちがう


蒼穹の昴(1) (講談社文庫)

 

 

 

 

 

 

名もなき人にも星は輝く

司馬遼太郎氏の『坂の上の雲』には明治時代の偉人が綺羅星のごとく登場する。

秋山兄弟や正岡子規はもとより、伊藤博文、高橋是清、井上馨、大山巌、児玉源太郎、東郷平八郎、乃木希介、etc、etc・・・・・・。

自身の才能と人智の限りを尽くし、日本の勝利に貢献する彼らの姿は偉大だが、どうも私はそういう立派な人物よりも、市井の名もなき人々の意外なエピソードの方が心に残ったりするのだ。

例えば、

日本人として最初にバルチック艦隊を見た人がいる。沖縄粟国出身の奥浜牛という29歳の青年だ。

5月26日の朝、漁に出てそれを発見した彼はすぐに宮古島の島庁に報告する。

そこの警察官が堅物で、
「本当か、もし虚言なら罪は重いぞ」
と、まるで罪人扱いをされたのだが、
「首にかけても真実でございます」と、申し立てた。

そこで、今以上に官僚国家だった当時、報告書作成に1日費やし、さて宮古島に無線設備がないので、設備のある石垣島まで船でゆくことになったが、距離は170キロ。

船と言っても全長5メートルの木製のくり舟だ。

この命がけの船出に参加したのは、島の漁師で5人の男たち。

彼らは15時間以上舟をこぎ続け、石垣島にたどり着くと、夜通し走り続け、早朝島の郵便局にたどり着いた。

しかし打電時間の記録は曖昧で、東郷艦隊の信濃丸が『敵艦隊見ゆ』と打電した時よりかなり後だと思われる。

命がけの航海をいた5人の男たちは、島司の「国家機密だから」の言葉に従い、その後妻にも何も語らず、25年後歴史家によりその事実が公表されるまで、沈黙を守っていた。

齢60歳近くになって、その功労を称えられ、沖縄県知事から金一封を受け取った男たちは、頼まれたら出かけていき、当時の冒険を語っては酒を御馳走になるという何とも朗らかな晩年をおくった。

また初めてバルチック艦隊を見た奥浜牛は、発見の報告書を作る時に使った印鑑を後生大事にし、たとえ世間に知られなくとも、

「この印鑑は自分がかつて首を掛けて重大な役目を果たした名誉の記念である。末代まで大事にせよ」

と子や孫に遺言したという。

坂の上の雲〈6〉 (文春文庫)
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慟哭の海

先ごろ、司馬遼太郎著『坂の上の雲』八巻を読み終えた。

途中、中だるみもあったのだが、八巻め、いよいよロシアのバルチック艦隊と東郷平八郎率いる連合艦隊との決戦で、クライマックスを迎え、最後、秋山兄弟の晩年をさりげなく伝えることで、この偉大なオーケストラは幕を閉じた。

photo_saneyuki04saneyuki_1秋山真之海軍中佐は当時38歳で、司令官東郷平八郎の軍事参謀として「三笠」に乗り込んでいる。海戦の作戦はほとんど真之によって作られたといっても過言ではない。

この長い物語は端的にいえば、日本海海戦での勝利という一瞬のためにあり、すべての登場人物すべての事柄はこの一瞬に収斂される。

さて、明治38年5月27日の日没、日本の勝利がほぼ確定した時、真之は何を思ったか・・・・・・。

(どうせ、やめる。坊主になる)
 と、みずから懸命に言いきかせ、これを呪文のように唱えつづけることによって、その異常な感情をかろうじてなだめようとしていた。真之は自分が軍人にむかない男だということを、この夜、ベッドの上で泣きたいような思いでおもった。兄の好古へのうらみが、鉄の壁にさえぎられた暗く狭い空間の中で、灯ったり消えたりした。

天才軍師と呼ばれた真之だが、勝利に酔うどころか、敵味方関係なく、彼の指揮の元、多くの人命が無残に失われたことに衝撃を受け、軍人になったことを大いに悔やんだのである。

戦後、彼は仏門に入ろうとしたが、友人らが懸命に押しとどめたため、坊主になることはなかった。
その代り彼の長男が、父の遺志で無宗派の僧としてすごしたという。

また真之は戦後、宗教にはまり、軍内での派閥争いにも敗れ、不遇のまま50歳で生涯を終える。

彼の辞世の句は
「不生不滅、明けて鴉の三羽かな」

この三羽とは、俳人で友人の正岡子規と、同じく友人の清水則遠と自分のことだと思われる。

この三人は幼なじみで、東京の学校で文学を語り、青春を謳歌した仲間だった。
ちなみに清水則遠は、栄養不足による脚気が原因で大学生活のさ中、突然亡くなっている。

そして正岡子規も日露戦争勃発の2年前に脊椎カリエスで亡くなった。

天才軍師は晩年、日露戦争のことなど知らない友人らと酒を酌み交わし、融通無碍に語り合うことを夢見ていたのだろうか。
坂の上の雲〈8〉 (文春文庫)
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