ある活字中毒者の日記

       神は細部に宿る

2009年05月

売られた花嫁

シュミット村木眞寿美著『ミツコと七人の子供たち』は、光子の残した手記の他、子供たちが語った母の情報を基にしている。

光子と社交界ところで光子は手記の中で、人の悪口は一切書いていないし、デリケートな話題も巧みに避けているという。

これは子供たちに残すものだから、というのもあるが、やはり明治の女性の慎ましさからだろう。

だから夫婦の結婚についても、客観的な事実は判っても、その心情については何も語られていない。

残された結婚証明書によるとハインリッヒとみつが式を挙げたのは明治25年3月16日と書いてある。だが、ハインリッヒの来日がこの年の2月29日だから、たった16日で、出逢って恋に落ちて結婚するとは考えにくい。

なおドイツ貴族名鑑の記載では「同年12月16日入籍」となっているが、これは長男ヨハネス「翌年9月16日誕生」に、無理やり10か月前に合わせた印象だ。

結婚前18歳のみつの写真を見ると、すらりと背が高く、目鼻立ちもはっきりとして可愛らしい、現代でも通用する美人だ。

みつは東京牛込の「骨董商」青山喜八の三女として生まれた。

父親の喜八は商人というよりも道楽者で、賭け事や女や骨董に興味を持っていたらしい。そのため彼の父親から廃嫡され、財産は姉と養子に譲られていた。

なお、その養子の息子が、骨董の目利きとして有名な、白州正子の師でもある青山次郎である。

光子と子供たちこれは私の勝手な想像だが、喜八は、日本の骨董品に興味を持ったハインリッヒと出逢い、ひそかにみつを紹介したのではないだろうか。

ハインリッヒは当時33歳。若い頃、激しい恋をしたが、父に反対され、愛する恋人が自殺するという辛い体験をし、その傷心はまだ癒されていなかった。

元々仏教にも詳しく、東洋文化に深い理解があった彼は、黒い瞳の可憐な少女にたちまち惹きつけられたのだろう。

明治時代、尋常小学校もろくに出ていないみつにとって、異国の男との結婚は恐怖だったと思うのだが、娘は父親に絶対服従だった時代、親の言う通りにするしかなかった。

これは後で分かるのだが、ハインリッヒは結婚後もみつの実家に、毎月100円もの大枚を仕送りしていた。

明治中期の100円は今の100万だから、年間1200万円の不労所得が喜八にはあったわけだ。

喜八との間にどんな契約が交わされていたのか知らないが、みつの夫は律儀にその約束を守っていた訳で、喜八にとってはまさに金の生る木。

そして、みつは夫の死後、借家暮らしになっても父に死ぬまで送金していたらしい。

実家に帰りたくても帰れない。結婚は父にとって金蔓なのだから。

彼女はこの異国の地で生きていこうと強く決心したことだろう。

夫が生きている間はまだ良かった。

伯爵夫人としての優雅な暮らし。7人の子供にはそれぞれ乳母と家庭教師がつき、みつは子育てに追われることもなかった。

そしてみつの子供はみな優秀だった。

だが子供たちの優れた知性が、やがてみつを苦しめることになるのだ。

続く。。。。。

 

 

 

 

 

 

光子とヨーロッパ

光子の肖像「青山みつ」という女性の存在を知ったのは、昔読んだ、少女雑誌の漫画からだった。

ストーリィーは、明治の初め、18歳の町娘青山みつが、オーストリア・ハンガリーの外交官で伯爵であるハインリッヒと出逢い、2人はたちまち恋に落ちる。

周囲の反対の中、彼らは結婚し、2人の息子をもうける。そして結婚3年後、正式にみつは伯爵夫人として、夫と子供らと共に、オーストリアへ旅立つ。

やがて7人の子に恵まれ、優しい夫に愛され、何不自由なく暮らしていたみつだが、突然夫の死によってその生活は一変する。

「東洋人なんかに伯爵の財産を渡してはならない」という夫の親戚らと遺産相続で争ったがそれに勝利し、その後、見事な手腕で城や広大な領地の管理をし、7人の子供たちを立派に育てた。

その子供たちのうち1人が今のユーロの基礎となった「パン・ヨーロッパ・ユニオン」の創立者、リヒァルトである。彼はあの有名な映画「カサブランカ」のモデルにもなったらしい。

日本人初の「伯爵夫人」としてヨーロッパに渡り、ハプスブルク帝国末期光子とハインリッヒのウィーン社交界で「黒い瞳の貴婦人」として活躍したという、少女漫画にぴったりのシンデレラストーリーだ。

だが、現実はそんな甘いものではない。

今回読んだ、シュミット村木眞寿美著『ミツコと七人の子供たち』で、私のそれまでの青山みつのイメージはがらりと変わった。

何という過酷で寂しい人生・・・・。

まず伯爵とみつの馴れ初めだが、どう考えてもこの2人が出逢ってすぐ恋に落ちるなんて不自然すぎる。

それよりも、みつは父親によって、異国の人「紅毛の白い鬼」へと売られてしまったと考える方が自然なのだ。

続く・・・。

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オッサンに萌える時

ジョニー・トー監督の香港映画、『エグザイル/絆』のDVDを観た。

本当は映画館で見たかったのだが、私の住む地方では上映されず、がっかりしていたのだ。

『ザ・ミッション/非情の掟』や最近では『エレクション』など大好きだが、この作品もとても素晴らしく、楽しく、そしてある意味羨ましかった。

舞台は返還間近いマカオ。そのせいか街や室内の雰囲気が香港というよりポルトガル風で、劇中流れるマカロニウエスタンぽいメロディと相まって無国籍の感じが心地よい。

敵と味方「ウー」という男のアパートに、2人ずつ2組の男たちがやって来る。一方は彼を殺しに、そしてもう片方はその彼を守るために。

やがて激しい銃撃戦が始まる。そして室内であわや三角決闘となった時、きな臭い部屋に赤ん坊の泣き声が響いた。
そして、ウーの妻が一言「ミルクの時間よ」

その途端、今まで激しい戦いをしてきた5人は、拳銃を下に向けお互いに笑い合う。

友よそして5人協力し、いそいそとウーの部屋の荷物を運んだり、銃撃で壊れた室内の家具を修理したり、てきぱきと料理を作ったり。。。。

あげくにみんなでテーブルを囲んでの夕食、がつがつ食い、笑い合い、その後は無邪気に記念写真まで撮っている。

この5人の男たち、実は幼なじみなのだ。今は殺し屋で、お互いボスが違い、敵味方と分かれてはいるが、友情は変わらない。

だが、もちろん殺し屋としてのプライドもあり、「俺は必ずおまえを殺す」と宣言する友達に、ウーは「覚悟はできているが、せめて妻子に金を残したいので一日だけ待ってくれ」

やがて男たちはウーの最後の願いを叶えるため、手っ取り早く金になる「殺し」の仕事を引き受けるのだが。。。。。。。

どこへ行くのかいやぁ萌えました。何がってこのオッサンたちに。

歳の頃なら40過ぎ、もろメタボ体型もおり、「香港ノアール」にありがちの「クールなイケメン」ではないのだが、その少年ぽさ、無邪気さに参ってしまった。

見てると、「ガキの頃、こいつがリーダーで、あいつがサブ、こっちはパシリで、このデブはいじめられっ子だったのだろうな」と想像できる。

そして彼らは話し合いなどしない。すべて暗黙の了解で決め、迷った時はコイントスを使う。

この中年の男の子たちの仲間意識って羨ましい。普段はてんでバラバラでも、いざという時は、何も言わなくとも瞬間に心が通じ合うのだから。

また彼らは、同じ仲間を嗅ぎ取る嗅覚も鋭い。

金塊強奪されている銃の上手い警備員を発見し、自然と銃で応援し、たちまち仲良くなってしまうところなど、ああ男の子だな、と思う。

彼ら、殺し屋としては甘すぎるが、心の通い合う相手と笑いながら死地に向かう姿は、清々しく、心に残るのだ。幼なじみ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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二人のおじさん

忌野清志郎さんが亡くなって一週間が過ぎた。

『僕の好きな先生』以来、特別ファンだった訳ではないけど、人生の節目節目にはいつも彼の歌があった、という40代50代が多いのではないだろうか。

彼は、いかにも都立高校出身らしいたたずまいで、頭は良いが秀才エリートの道には興味がなく、世の中に反発しながらも、いい意味での普通の感性があり、それが男女年齢問わず多くの人々の共感を得ていたに違いない。

人は誰でも、優しい不良少年が好きなのだ。

だから、数年前、清志郎さんが自転車に凝っていると聞いて、おや?なんか違う、と思った。

これはファンの勝手な言い草だが、出来れば彼には健康に気を使うような行動をしてほしくなかった。

いつまでも無頓着な不良少年のような清志郎さんを見たかった。

例えば、入院中、こっそり病室を抜け出し非常口で隠れて煙草を吸っていたら、「忌野さん、何してるんですが!!」と、自分の娘くらいの看護師から怒られて、しょぼんとしているような。

ところで、中島らものエッセイに、初めて忌野清志郎さんと会った時の様子が書かれてあった。

その中で、らもがふと、自分が以前ブロン中毒(咳止めシロップ、重篤な依存性がある)だったことを漏らすと、清志郎さんは、鹿のような涼しい目で、「ブロン中毒だったのですか」と笑った。

たぶん本物のドラッグ地獄をくぐり抜けて来ただろう清志郎さんに対して、「咳止めシロップ中毒」のらもは、情けなく恥ずかしかったという。

ああ、良い雰囲気のおじさんたちだな、と読みながら思った。

そんな可愛いおじさん、今は二人とも亡し。

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移民の町の愛国者

頑固爺さんクリント・イーストウッド俳優人生最後の作品と言われている『グラン・トリノ』を観た。

今までの彼の監督作品は、大てい暗く重く、後味が悪いのが常なのだが、今回は違っていた。ある意味ハッピー・エンドで、爽やかさを感じるのだ。若しくは男子の本懐というような。

さてストーリーだが、朝鮮戦争で若い兵士を多く殺したことに今でも罪悪感を持っているコワルスキーは、頑固で口の悪い爺さんだ。

妻に先立たれ、子供たちからも避けられ、1人暮らしをしている。彼の住む町は、いつの間にかアジア系移民ばかりが住み着つようになり、それも気に入らない。

彼の慰めは愛犬と、72年型フォード車の「グラン・トリノ」を磨く事だ。

その愛車を盗もうとした隣家のモン族の少年タオを、銃で追い払うが、やがてコワルスキーは、その少年、そして家族たちの暖かさにだんだん惹かれるようになり、やがて彼らを守るために立ち上がる・・・・。

老人と少年まずイーストウッド演じるコワルスキー爺さんだが、大変お茶目なのだ。

もちろん当人は頑固一徹だが、そのくそ真面目さが逆に笑いを誘う。

そして彼は愛国者で外国人を毛嫌いはするが、その差別は平等だ。

アジア系、イタリア系、黒人、メキシコ人、ユダヤ人、アイルランド人・・・・すべての外国人が罵倒の対象となる。

つまり彼にとって、外国人罵倒の言葉は、大阪人の「もうかりまっか」「ボチボチでんな」と同じような、あいさつ言葉なのだ。

彼の口の悪さは、愛情と照れくささの裏返しと分かると、このじいさんが愛すべき人に見えてくる。

そして彼は幸せな晩年をおくっているなと、羨ましくなる。

みゃお若い者に媚びずに頑固さを貫くことが老人の特権なのだから。

そして彼の愛車「グラン・トリノ」

日本でいえば「ケンメリ」みたいなものだろうか。

ラスト、愛する国産車の行く末を見た時、もう一度思った。

色々あったけど、なんて幸せな最期だろうと・・・・。

 

 

 

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