氏の作品を読むのは恥ずかしながら初めて。
映像化されたものは結構観ているのだが(『重力ピエロ』『「死神の精度」』『アヒルと鴨のコインロッカー』『チルドレン』など)、何となく読みあぐねていたのだ。
さて、この『ラッシュライフ』だが、小説というよりも、1枚の壮大な騙し絵といった様相だ。まるで文中にも出てくる、エッシャーの騙し絵のような。
そして、最初のうちはちょっと辛いというか、わらわらと出てくるそれぞれ立場の違った登場人物たちに戸惑ってしまうが、一旦全体像が見えてくるとそこからいきなり流れが速くなる。
5つの物語を複合的に絡ませ、クライマックスに持っていく手法は面白い。だが、時間軸もそれぞれバラバラというのが最後で分かるというのは、反則とは言わないが、何となくあざとい感じがする。それとも私が伊坂初心者だからだろうか。
そしてやはり最後の方で、ある男が共犯者とペラペラとネタ明かしをし、それを誰かが物陰から聞いている、というシチュエーションも、ちょっと安直かなという気が。
でも、登場人物たちはそれぞれ個性豊かで、真摯だが、どこか抜けていて憎めない奴らばかりだ。
私が一番好きなキャラは、「京子」という女性。悪女に見えながらも、まるで「ヤッターマン」のドロンジョ様のような可愛らしさがある。
結局、一番性悪に見えた京子が、一番不運だった気が。
さて、私が伊坂氏の作品を読もうとしたきっかけは、ある本に載っていた氏の話だ。
彼がシステムエンジニアとして働きながら小説を書いていた頃、通勤時ウォークマンで聴いていた斎藤和義の『幸福な朝食 退屈な夕食』の、
♪今歩いているこの道が いつか懐かしくなればいい♪とい歌詞に、ハタと思い、そして会社を辞め、作家一本になる決意をしたという。
この話にはびっくりした。私も斎藤和義が好きで、特にこの『幸福な朝食 退屈な夕食』は大好きな曲なのだが、聴くと鬱になる曲でもある。
人の焦燥感を煽るというか。単調な生活をしている人、このままでいいのかと思いあぐねている人には、ドキッとする曲だ。
そういえば斎藤和義の曲に『ベリーベリーストロング〜アイネクライネ〜』というのがあるが、これは伊坂氏が斎藤氏のために作った短編『アイネクライネ』を原案にしたものだそうだ。今頃知った。
改めて『ベリーベリーストロング』を聴いてみると、確かにそこにあるのは伊坂ワールドだ。
気の弱い俺、生真面目な会社の先輩、親切な女性・・・・。
そして歌詞の中の街は新宿でも渋谷でもなく、地方の都市、澄んだ空気と緑にあふれた、杜の都、仙台そのものだ。(行ったことないけど)
歌うたい15 SINGLES BEST 1993~2007
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幸福な朝食 退屈な夕食
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