ある活字中毒者の日記

       神は細部に宿る

2009年09月

伊坂幸太郎著『終末のフール』を読んだ。

これは「8年後に小惑星が衝突し地球は滅亡する!」、そう予告されてから5年後、仙台市内の、とある住宅地を舞台にした物語だ。

「地球が破滅する!」と知らされた時の大パニックや暴力、殺りくなども今は治まり、一見、平穏を取り戻したかに見える街で、残り3年をどう生きるべきか模索する人たちの日常を追ったものだ。

ふと昔似たような本を読んだことがある、と思った。

新井素子氏の『ひとめあなたに・・・』だ。

素子氏のほうは、「一週間後に巨大な隕石が地球に衝突する」という極限状態の中で、東京から鎌倉まで、歩いて恋人に会いに行く女の子と、旅の途中に出会う、ゆっくり狂っていく女たちの物語だ。

『ひとめあなたに・・・』の登場人物たちはエキセントリックだが、たくましく強い。自分の意志をしっかり持っている。あと一週間という覚悟があるせいか。

それに比べ『終末のフール』は、滅亡を知ってからもう5年、そして余命あと3年という、まことに微妙な、ある意味ヘビの生殺し状態だ。

暴力や襲撃が行われた後の殺伐とした街で、25歳で自殺した息子を思い遣る老夫婦、突然の命の誕生に戸惑う夫、死ぬ前に父の蔵書をすべて読み、そして恋愛したいと思う女の子、等々、さまざまな人間模様が描かれている。

中には、この地球絶滅に幸せを感じている人もいて、理由を知るとそれはそれで切ない。

私が共感したのは、天体おたく、二ノ宮の話だ。
星に夢中な彼は、3年後、小惑星が自分の目で間近に見られることに心から喜んでいる。

私は天体の事はさっぱい分からないが、地球滅亡の瞬間をこの目で見たい、体験したいという気持ちがある。
できることなら、この物語の世界に入りたいぐらいだ。
そして余命3年の間、天体の事、小惑星の事など研究して、地球最後の日に立ち合いたいと思う。

もちろん、それは自分が今平和でニュートラルな状態だから思うので、実際、地球が滅びると聞いたら、みっともない位取り乱すかもしれないが・・・。

そして、地球最期の日をブログに残したら(まあネット使える状況ではないと思うが)、何千年後か何万年後か、誰かが見てくれるだろうか?

終末のフール (集英社文庫)
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ひとめあなたに… (角川文庫)
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連休の最終日、地元の再上映館、「小倉昭和館」にて、映画『ハゲタカ』を観てきた。

この作品には熱狂的なリピーターが多く、ファンのブログを観ても、10回以上、中には20回以上観賞している方も。
思わず『その情熱はどこから来ているのですか?』と問いつめたくなる。未公開映像(もちろん尊敬と愛をこめて)。

ちなみに私は今回を含めて3回。

でも中毒になる理由も分かるのだ。うまくは言えないけど。

まず鷲津のシーンではブルーの、そして中華系ファンド劉一華のシーンでは赤茶けた色の、全体的に靄がかかったような映像。
登場人物たちは、主役を含めほとんど笑わず、みな沈鬱な表情で、「兆」「億」といった記号を追いかけている。
緊迫感あふれる会話は、時に聞き取りにくく、悲愴なふんいきに、音楽がさらに追い打ちをかける。

ラストも爽快感はなく、どよ〜んとした空気に包まれながら映画館を後にするのだが、時がたつと懐かしく思えてくるのだから不思議だ。

今回観て、新たに気がついたのは、中国残留孤児3世のファンドマネージャー、劉一華を演じた玉山鉄二だ。この人うまいよ。

劉一華特に後半のシーン、それまでギラギラしたオーラ出しまくりの、得意満面のファンドマネージャーだったのが、鷲津から正体をあばかれた瞬間、空気を抜かれた風船のように、へなへなと表情がしぼんでしまう。
あるいは狐であることを見破られた美女という趣か。
その後は、あれほどあったオーラはどこへやら。髪型や服装は同じなのに、すっかり抜け殻の体になっているのが秀逸だ。

玉山鉄二って、昔洗剤「ボールド」のCMに出ていたハンサムなお兄さんで時々ドラマに出てる、って認識しかなかったのだけれど、実力派なのね。

そんな訳で映画『ハゲタカ』は来年DVDが出るそうだが、やはりこのどよ〜んとした空気を味わうなら劇場観賞をおすすめ。(もう遅いって!)

映画 ハゲタカ(2枚組) [DVD]
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今更だが、「伊坂幸太郎」がマイブームになっており、『グラスホッパー』と『ゴールデンスランバー』を立て続けに読んだ。

そして、どういうことだろう。今私の中では読み終えたばかりの『ゴールデンスランバー』の事でいっぱいいっぱい。初めに読んだ『グラスホッパー』の記憶がないのだ。結構面白かったはずなのに。

それだけ『ゴールデンスランバー』は衝撃的かつ、切ない物語だったのか。

青柳くんタイトルは、ビートルズのアルバム『アビーロード』の中の楽曲の一つで、物語の中でも、『アビーロード』の曲が印象的に出てくる。

ストーリーは・・・・、国民投票で選ばれた若き金田首相が、故郷、仙台市での凱旋パレード中、何者かによって暗殺される。

その頃、同じ市内で、大学時代の友人森田森吾に久しぶりに呼び出された青柳雅春は、彼から「おまえは陥れられている」「逃げろ!」と助言される。

直後、首相が暗殺され、なぜか警察が青柳に銃を向けてやってくる。

巨大な陰謀により首相暗殺犯に仕立て上げられた青柳。テレビや新聞は大騒ぎして、根も葉もない情報を垂れ流し、警察は犯人が見つかり次第、射殺もやむなしとの構え。

しかも仙台の街は、いたるところにセキュリティポッドが置かれ、携帯やPCを使うと即刻居場所が分かるようになっている。

まさに四面楚歌、青柳は無事逃げることができるのか。

物語は5つの構成になっており、第1部・事件のはじまり、 第2部・事件の視聴者、 第3部・事件から20年後、 第4部・事件、 第5部・事件から3ヶ月後、と成っていて、第4部・事件が作品の大半を占めている。

個性的な登場人物が同時多発的に描かれ、細かい伏線が張り巡らされ、味のある会話がちりばめられているあたり、伊坂ワールドの真骨頂だ。

それにしても青柳雅春は不運な男だ。

人一倍善良な性格が災いして恋人樋口晴子に振られ、トップアイドルの女の子を暴漢から助けたために有名になり、それが巨大な組織から目をつけられるきっかけとなるのだ。

だが悪いことばかりではない。
そのまっすぐな性格のためか、逃亡中、多くの人たちの善意を受ける。

元彼女や、大学時代の後輩カズ、前の職場の宅配便の仲間だけでなく、通りすがりの人たち、あるいは凶悪殺人犯までが体を張って、彼の逃亡を助ける。まさに人徳だ。

そうだ、こんな人の良い善良な主人公が不幸なままのはずがない。きっと最後は自由の身になるのだと・・・・。
・・・だが、ラストをみて、思わずひざを折る(心の中で)。

こんな、こんな結末なんて・・・・・。

ラストシーン思ってもせんないかもしれないが、彼を振った元恋人樋口晴子は、優しく理解のある旦那と、可愛い女の子に恵まれ幸せに暮らしている。

それに比べ、なぜ青柳君はこんな悲惨な目に逢わなければいけないんだ、理不尽すぎる。

打ちひしがれた気持で、最初から読み返してみる。伏線をたどるために。
そして第3部・事件から20年後、を再読して、そうか!と気がついた。

どんなに辛く悲惨であっても決してやけにならず強く生き抜いていく、そして昔の友情を忘れない善良な男に幸あれ。

ああ久しぶりに『アビーロード』が聴きたくなってきた。

ゴールデンスランバー
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Abbey Road
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バカ夫婦今更だが、北野武監督の映画『アキレスと亀』のDVDを観た。

昨年劇場公開された時は、ベレー帽姿の主人公に、「今時ベレー帽かぶった画家かよ、ドリフのコントじゃあるまいし・・・」ということで、ほとんど興味が湧かなかったのだが、最近「面白かったよ」という友人の意見もあり、DVDを借りてみたのだ。

・・・そして観おわった後、後悔した・・・。

すごく良かった、まず映像が美しい。
静かな田園風景、そしてたけし自身が描いた、たくさんの鮮やかな絵画。ああ、大きなスクリーンで観れば良かった。

思うに、これは才能がないのに「芸術」という実体の無いものに取り憑少年時代かれた男の物語だ。

主人公真知寿は大富豪の家に生まれた。芸術かぶれの父親は、画家のパトロンをし、画商の言われるままに絵画を買っていた。

そんな環境で、自然と絵を描くようになった少年時代の真知寿。

ベレー帽はその頃、有名な画家からもらったもので、彼にとって一番幸せだった時代の象徴なのだろう。

画家や画商たちは、金蔓の息子におもねって、「いやあ素晴らしい絵だ」「天才だ」と散々彼の絵を持ち上げ褒めちぎる。

父親の権力が強かったため、真知寿が小学の授業中、勝手に絵を描いてもだれも叱らない。

そんな訳で、彼は「自分は芸術家になるのだ」という暗示をかけられてしまったようだ。

しかも自分が好き勝手に描いたものを周りの大人たちがことごとく褒めるため、彼は肝心の「基礎を学ぶ」というチャンスを逃した。これは芸術家としては致命的だ。

いわゆる野狐禅というやつに近い。師に学ぼうとせず、自分勝手な思い込み、妄想だけで絵を描くようになるのだ。

やがて父の会社は倒産、両親は相次いで自殺し、真知寿は貧困生活を送ることになるが、芸術家になる夢は捨てきれず、大人になっても働きながら絵を描き続けた。

だが相変わらず何を描いていいのか分からない彼は、画商におもねり、その意見に振り回されている。この時の画商と真知寿のやりとりが絶妙の間で面白い。コメディセンスはさすがだ。

そして、妻になる女性との出逢い。

妻は画家を目指す夫のためだけに生き、彼以上にその芸術にのめりこんでいくのだ。

さて不思議なことに、真知寿が出会う人々は、概ね彼に協力的だ。

孤児になった彼を引き取った叔父は、悪態は付きながらも絵を描くことを許してくれたし、青年時代、新聞配達所の主人も印刷工場の社長も、絵ばかり描いて真面目に仕事をしない真知寿に優しかった。
画商も、散々嫌味を言いつつも、彼の絵を店に飾ってくれてるし、実の娘に至っては、悪態を吐きながらも、売春(!)をして家計を助けている。

そして妻は言わずもがな。

善意の人々に囲まれ、真知寿は「芸術家になる」という列車から降りる機会を逸してしまったのかもしれない。

思えば彼にハッキリ「下手だ!」と言ってくれたのは、叔父に引き取られていた時、近くに住んでいた農家の知恵遅れの男だけだ。

真知寿は絵を描く時、少しも嬉しそうではない。

本来、白い画用紙に絵を描く、それは原始的な喜びであるはずなのに、「芸術」とはなんと重く辛く、やっかいなのだろう。

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私の初めて海外旅行は、1978年のアメリカの西海岸だった。

ミルクと仲間たち坂の多いサンフランシスコの街並みを歩いていた時、ふと違和感を感じた。なんだか男の二人連れが多いのだ。
それによく見ると、仲良く手をつなぎ、指を絡ませて歩いている。

後になってその通りが、アメリカでも有名なゲイ・ストリートだと知った。

「さすがアメリカ西海岸!ナウいじゃん(’70年代なもんで)」と思ったものだが、先日見た映画『MILK』の主人公、ハーヴィー・ミルクが凶弾に倒れたのも1978年のサンフランシスコだった。

映画は、実在の人物、同性愛者であることを公表しアメリカで初の公職に就いた、サンフランシスコ市制執行委員(市議みたいなもん?)ハー恋人ヴィー・ミルクが凶弾に倒れるまでの8年間を追ったものだ。

オスカーに輝いたショーン・ペンの演技は素晴らしかったが、自分が日本人でノーマルだからだろうか「ゲイにも権利を!」と声高に主張するハーヴィーの行動にはいまいち付いていけなかった。

だってこの人、人前で平気で男同士、抱き合ったりキスしたりしてるし。年配やお堅い人が眉をしかめるのは仕方ないのでは。

それに「家族や友人、雇い主にも権利を認めさせよう!」ってそこまで主張する必要があるのだろうか。

普段は、普通に仕事をし市民生活を営み、プライベートの時間に愛の生活を楽しめば良いのにと、同性にも異性にも愛の足りない薄情な私は思ってしまうのだが。

ミルクだが保守派の人たちもずい分大人げなく、ゲイを理由に解雇したり、ゲイの教職者を追放する条例を作ったりして、これも過激だ。

お互い正しくガチの勝負で、その点、なるべく波風立てないようにしたがる日本とはエライ違いだ。

そんな訳で、ハーヴィーの政治活動にはあまり感情移入できなかったのだが、さすが若い男の子を撮らせたらピカ一のガス・ヴァン・サント監督。
前作の『エレファント』や『パラノイドパーク』で魅力的な少年たちを描いていたが、今回も、ハーヴィーの周りに集まってくる男の子たちは、いずれ劣らぬ美形ばかり。

そして女性の描き方ははおざなりというか、明らかに手抜きなのは相変わらず。

ただ若手の俳優たちに囲まれて、ショーン・ペンの加齢というか皺が目立ったのも事実だ。

そろそろ彼も体当たりの役は難しくなったのかなぁ。

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佐々木譲著、『エトロフ発緊急電』を読んだ。

内容は、1941年1月、山本五十六連合艦隊司令長長官が、ハワイ奇襲攻撃を立案するところから始まる。
超国家機密事項だ。針の先ほどの漏洩も許されない。

秘密裏に進んでいる計画だが、それに挑むアメリカの諜報機関の重要人物が、ケニー斎藤(斎藤賢一郎)、日系アメリカ人。鯨

頭脳明晰ながら日系人ということで大学進学もままならず、船員を経た後、スペイン義勇軍に参加するも挫折して帰国。プロの殺し屋になった彼にアメリカ海軍が目を付ける。

アナーキーな彼は、アメリカ海軍情報局にて訓練を受け、スパイとして日本に潜入し、やがて「真珠湾奇襲攻撃」という歴史的な情報をキャッチすることになる・・・・・・。

日本での諜報活動においては、南京大虐殺で中国人の恋人を殺されたアメリカ人牧師や、タコ部屋で強制労働をさせられた朝鮮人など、複雑な過去を持つ男たちが、斎藤を支える。

そして北の地、エトロフ島にて彼は、ロシア人との混血である美しい女性、ゆきと運命的な出会いをするのだ・・・・。

強制的に連れてこられたクリル人の青年や朝鮮人など、当時不遇な立場にあった人たちが、知らず知らずのうちに日本の重大な機密事項にかかわっていくのが興味深い。

日本の命運をになった、非常に緊張感のある物語だ。

・・・だがしかし、駄菓子菓子、話の途中で私は一人の男の行動に目が離せなくなったのだ。

その男は磯田茂平、叩き上げの憲兵隊の軍曹だ。

上官である秋庭大尉から、斎藤を追跡するよう命令された彼は、ひたすら彼を追う。

磯田は下っ端の軍曹だから、もちろん、斎藤がどこに行くのか、彼の正体は何なのか、そもそも何の目的で追跡するのか知らされていない。

いわばパシリだが、愚直で生真面目だけが取り柄の彼は、ただ必死に斎藤を追い、青森、函館、根室、そしてエトロフ島へと向かう。

しかし、アメリカ海軍で本格的なスパイの訓練を受けた斎藤と、軍曹の磯田では大人と子供の差がある。

日本軍や警察の目を出し抜き、行き先々で細工をし足跡を残さないスマートな斎藤に、振り回され右往左往し、極北の地で満身創痍、凍傷で肌はただれ、ぼろぼろになりながらも必死で追う磯田。

読めないローマ字を村の人に尋ねて嘲笑され、慣れない馬やスキーにモタモタしてまた笑われ、やっとエトロフ島についたら、今度は封鎖されて現地に入れなかったりと、やることなすこと不運続きだ。

それでもめげない、まるで忠犬ハチ公のような彼だが、たった一度、人間らしい感情を吐露する場面がある。

磯田はそばの椅子に腰をおろして思った。根室まで行けば、カニが食べられるだろうか。略。
料亭にも鮓屋にも縁のない磯田にとって、これは千載一隅のカニを食べる機会かもしれなかった。磯田はこの追跡行のあとの褒美として、自分のためにカニ料理を奮発しようと決めた。

その瞬間!私は日本を左右する国家機密事項よりも、緊張感あふれるスパイの諜報戦よりも、「磯田は果たして無事に、カニを食べることができるのか?!」というので頭が一杯になった(わたしゃバカか)。

やがて物語はクライマックス、日本、アメリカ、エトロフ、それぞれにちりばめられた伏線が見事に完結。

スリリングな展開、臨場感あふれる自然描写、そして人の心、大変読みごたえのある、素晴らしい作品だった。

でも心残りがただ一つ。

相好を崩してカニをほお張る磯田軍曹が見たかった・・・・。

エトロフ発緊急電 (新潮文庫)
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伊坂幸太郎氏の『魔王』を読んだ日が、8月30日、衆議院選挙の日だったのは偶然の一致だろうか。

作品冒頭、車内吊りの見出しが、「衆議院解散!」の文字。
久しぶりに会った友人の「今まで選挙に行ったことねえんだよな」「でも今度は行こうと思ってんだぜ。初、だよ、初。初選挙」
「どうして急に」
「あの犬養って面白えじゃんか」って言葉。

・・・犬養って大時代的な名前に思わずズッコケたが、これ、「犬養」の代わりに「政権交代」って入れたら「今」の状況にぴったりだ。

猫三匹ちなみにこの作品は2005年発表。小泉郵政選挙より以前だ。

物語は2部に分かれる。

1部「魔王」は、理屈っぽく、考えすぎるきらいがある安藤兄が、自分に特殊な能力があることに気づく。

ちょうど時代は、「与党支持率低下」「底の見えない不況」「失業率史上最悪」「アメリカ、中国に対する弱腰外交」etc・・・。
国民の不満は高まり、急激にナショナリズムが高まっていた。

そんな時代にあらわれたカリスマ政治家、犬養。
民衆は彼に惹きつけられる。

だがそんな犬養にファシズムの匂いを感じた安藤兄は、自分の超能力を持って、彼に戦いを挑むのだ・・・・。

そして2部「呼吸」では、1部の5年後、安藤の弟で考えることは苦手だが、直観力に優れた弟、潤也が、兄とは全く違うアプローチで、再び戦いに挑もうとする・・・。

この犬養、実は優れた政治家なのだ。
アメリカや中国にもはっきりものを言い、自分の利害は考えず、自分の選挙区や特定企業におもねることもなく、年金制度に力を注ぐ。

そのカッコよさに多くの国民が心酔しているさなか、憲法第九条の国民投票が行われる・・・。

読み終わってまず感じたのは、「魔王」って、安藤兄弟でも犬養でもなく、民衆では?ということだ。

情緒的で熱しやすく冷めやすい国民性。
読んでいる間は「民衆をステレオタイプに描き過ぎでは」と思ったが、今回の選挙結果をみる限り、あながち大げさではないようだ。

そして不況の時、民衆は強いリーダーを求めがちだ。

何事も話し合いで決め、あっちでもたもた、こっちでグズグズ、やたら時間と手間がかかる民主主義よりも、頼もしいリーダーにテキパキと決めてもらった方を希望するようになる。

だがそれが独裁主義、ファシズムの一歩ともなるのだ。

そんな訳で、民主主義とはカッコ悪いものだ。

民主党のみなさん、今までのええかっこしいはやめて、ぜひカッコ悪い政治を目指してください。

魔王 (講談社文庫)
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