車谷長吉氏の『赤目四十八瀧心中未遂』を読み終わった。
今だに胸のドキドキが止まらない。
すごい小説を書く人だ、車谷長吉って。
読みながら思わず身悶えしてしまった。
特に後半、主人公、生島与一とアヤちゃんの手に手をとっての道行には、先に映画でみて結末は分かっているのにも関わらず、切なさで胸がいっぱいになる。
この人の文章がまた独特で、散りばめられた古風な言葉や言い回しの、なんと美しいこと。
「置文」、「接吻」、「辻姫」そして「まぐわい」・・・・・。
そして彼の住むアパートの住人たちの、たまらない、うらぶれっぷりには、この世の果てを思わせ、わらわらと湧いて出てくる異形の人たちの姿や生活は時に幻想的で、ガルシア=マルケスの世界を彷彿させる。
車谷長吉氏は、最後の私小説作家と呼ばれているそうだが、私には「私小説」の定義がよく、分からない。
とにかく生島与一=作者なのだろう。
社会に馴染むことができず、会社を辞め人間関係から逃げ、流れ流れてきた尼崎の、ブリキの雨樋が錆びついた街。
そこで日がな一日、病死した鳥や牛の臓物を串に打って口に糊している。
だが彼は、この街からも拒否される。所詮アマちゃんのインテリなのだ。
チンピラも娼婦も焼鳥屋の女将さんも、そこは敏感に感じ取っている。
しかし、この世界から逃げたいアヤちゃんは、生島に「連れて逃げて」という。
ああ、彼がもっと行動力と甲斐性があったら、二人幸せに暮らしていただろうに。
いや、どぶのお粥をすすってきたようなアヤちゃんとインテリの彼では、結局上手くいかなかったかも・・・・。
そして失意のうち、この無能の青年は、やがて希有な小説家になるのだ。