このたび芥川賞を受賞した西村賢太著『苦役列車』を読んだ。
著者に関しては、中卒で逮捕歴アリとか、長年日雇労働をしていたなどが話題になっているが、ページをめくるや、たちまち夢中になってしまった。
とにかく面白いのだ。
大体「私小説」というのは、これまで辛気臭いものが多かったのだが(車谷長吉氏などは別として)、この人の筆致にはぐいぐい引き込まれる吸引力というか魅力がある。
悲惨でダメダメな日常を描きながらも、どこかユーモアがあり、カラッとしている所なぞは、町田康をリアルにした感じか。
陰鬱で猥雑な描写も、文章の湿度が低いせいか、ドロドロしておらず、清潔感さえ感じられるのだ。
著者はインタビューで、自分は恋人はおろか友人も一人もいないと語っていたが、変に人交りをしていないせいだろう、とても格調高い日本語を使っていると思う。
また選評で山田詠美嬢が述べていたように、やさぐれた描写をしながらも、「おれ」ではなく「ぼく」、「刺身」ではなく「お刺身」と表わすなど、あまりにも可愛すぎる。
この愛すべきろくでなしには、結婚とか小市民的な幸福など望まず、ぜひダメ人生をまっとうしてもらいたいものだ。
苦役列車
著者:西村 賢太
新潮社(2011-01-26)
販売元:Amazon.co.jp
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