山冷蔵庫にお豆腐があると安心する。煮てよし焼いてよし、サラダにしても美味しいし、不意のお客様が来たら、とり合えず薬味を添えてお出しすることができる。

栄養価があって低カロリー、それでいて自己主張しない、よくできた嫁のようだ。

さて、九州地方はつゆ入りを迎えた。朝から雨が降り続いているが少し肌寒い。そんなときふと、池波正太郎の短編「梅雨の湯豆腐」を思い出した。

いわゆる仕事人(殺し屋)の彦次郎は、普段はひっそりと1人暮らしをしている。料理が好きで、梅雨冷えのある日、豆腐を買い求め、湯豆腐と焼き海苔で酒を楽しむ。

うーん、梅雨のジメッと寒い日に、湯豆腐あうだろうな、と思いつつも読者は、非情と思われた主人公の思いがけない人間性を見いだす。

湯豆腐ひとつで、あざやかに人の心を描き出す池波正太郎氏は、稀代の料理人だ。


梅安料理ごよみ