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本を読んだ後、頭の中が混乱し、あたかもどろどろとした混沌状態になるときがある。

それは巨匠が、いっさい力を抜かず、どうだー!とばかりに書き著したものに出会った時に、しばし訪れる。

そしてその混沌は、時間がたつにつれ徐々に均質化する。やがてそれが美しい塑像となって表れた時、本を読む快感はここにきわまれるのだ。

昨日、三島由紀夫著「春の雪」を読んだ後、久々にこの混沌を味わった。

頭の中に、理解し得るもの、し得ないもの、共感するもの、不快なものが混在し、今とても感想を述べる事は出来ないのだが、ただ印象に残っているものとして、主人公「松枝清顕」とその友人「本多繁邦」の友情がある。実は清顕の恋愛沙汰よりも私はこの、育ちの良い学習院の同級生同士の関係が気になってしょうがない。

公爵家の1人息子でたぐい稀なる美貌を持ちながら、すべてに無気力な清顕と、法律家を目指している、理知的で落ち着いた風貌の繁邦は、むろん性的な関係では決してないのだが、他のどれよりも官能j的である。

そして、彼らの美しさに比べて、その親たちのなんとこっけいな事。まるで働きアリのように右往左往しているその姿に思う。三島由紀夫はやっぱり子供だ。どんな作品も、常に老成した子供の視点で書かれている。

さて、今までこの作品を読まなかったのは、これが『豊饒の海』四部作シリーズの第一巻だからである。つまり「春の雪」を読んだ以上、あとの「奔馬」「暁の寺」「天人五衰」も読みたくなる事は必然で、けれど中年の身に三島由紀夫は、正直しんどいのだ。若い頃は激しい運動した翌日筋肉が痛くなったのに、年をとるとその痛みが3日後に来るのに似て、回復力が鈍くなっているから。でももう読み始めてしまったものはしょうがない。

弱々しい帆を広げて、豊饒の海を漂ってみよう

   


春の雪