1972年、ミュンヘンオリンピックの“あの事件”を覚えている。

スキー帽をすっぽりかぶり、バルコニーに現れた暗殺者の不気味な映像。そしてイスラエル選手団11名死亡という、最悪の結末。
史上初七つの金メダルを取ったにも関わらず、打ちひしがれた表情で選手村を後にした、ユダヤ系アメリカ人、マーク・スピッツ選手の姿は、忘れられない。

だが、日本のマスコミ報道は、これだけの大事件にも関わらず、えらくあっさりしていたように思う。そして、外国の選手の中には、抗議の帰国をする人もいたが、ある記者が日本選手に事件のインタビューしたところ「今、試合に集中したいので〜」という答えが返ってきた。確かバレーボールの選手だったと思う。

それを聞いて私は、「ふん、しょせん体育ばっかりしていた人間たぁ、こんなもんさね」とうそぶいたものだ。実にイヤなガキだった。

さて、今公開中の『ミュンヘン』を観た。

とても見ごたえがあり、3時間があっと言う間に過ぎた感じだ。

スピルバーグ監督は『シンドラーのリスト』以来、敬遠していたのだが、この作品で彼の良さを再確認できた。

まず、イスラエルとパレスチナを公正に扱っているところが良い。
そして、暗殺者アヴナー役のエリック・バナ。かれは前作の『トロイ』で悩めるお兄さんヘクトル役を好演していたが、この作品でも、眉毛の下がった悲しげな表情で、悩める暗殺者をリアルに演じている。

今公開中なので、多くを語るのは差し控えるが、ネットで、この作品のカスタマレビューを読んだところ「日本人には分りにくい」「むずかしい」の感想が多く、ガッカリした。

「おいおい、何のん気なこと言ってんの。ミュンヘン事件と日本は、おおいに関わりがあるよ!」

この事件が起きる3ヶ月ちょっと前、イスラエルのテルアビブ空港で、日本赤軍の三人が銃を乱射し、民間人を含め24人が死亡、73人が重軽傷を負った。いわゆるテルアビブ空港襲撃事件である。連合赤軍とパレスチナのテロリストは協力関係にあった。つまりミュンヘンの事件に日本人が加担する可能性もあったわけだ。

また同じくこの年の2月札幌オリンピックが開催された。イスラエル選手がいたかどうか分らないが、場合によってはこの札幌で事件が起きたかもしれない。その時、日本は対応できただろうか。

日本も西ドイツも敗戦国だ。西ドイツの対応が拙かった原因として、敗戦国のため軍の特殊部隊というものがなく、狙撃のエキスパートがいなかったためというのがある。ならば日本だったらどうしたか・・・。
多分、1977年のダッカ事件のように、犯人の要求に唯々諾々に従って、世界中の嘲笑を浴びた事だろう。

さて今年はドイツでワールドカップがある。民族主義、ナショナリズムがいやが上にも高まるであろう。メディアとしても最高の舞台だ。

ミュンヘンの二の舞を踏まないために、ドイツはテロ対策に必死のはずだ。

「分らない」「知らなかった」では済まされない。民族の争い、国家の確執は簡単には解決しないだろうが、そういう事実がある事だけは、充分認識すべき時期にきている。

ミュンヘン―オリンピック・テロ事件の黒幕を追え