脚本家であり小説家の「向田邦子」という名を聞くと、いつもシックな服を着こなした都会的で美しい姿を思い描いてしまう。

調べてみると彼女は昭和4年生まれ。存命であれば今年77歳、私の老母より年上だ。若いイメージがあるのは、51歳という若さで急逝したからだろう。

向田邦子を有名にしたのはあのドラマ、「寺内貫太郎一家」だと思うが、どうも私はこのホームドラマが苦手で特に、食事のシーンの多さ、口にものを入れたままくちゃくちゃしゃべるシーンはイヤだった。

でも最近彼女の著作を読むようになって気がついた。彼女は良い意味で“おぼこ”なのだと。

ある程度、年のいった独身女性というものは、私もそうだが古風である。例えば料理法なども、娘時代に母から習ったやり方を、今だに忠実に守っていたりする。
リアルタイムに夫や子ども達を食べさせなきゃいけない主婦たちはそんな流暢な事はしていられない。電子レンジを駆使し、時に冷凍食品やレトルトを利用する。食事に、味や栄養以外の情緒や付加価値を付ける余裕はないのだ。

向田邦子は子供時代を温かい家庭で育ち、なかなかの優等生でもあったようだ。きっと家庭で身に着けた温かさを古風に忠実に守り続けていき、やがて多くのドラマを作って行ったのだろう。そこにはリアリストの入る隙間はない。

結局彼女は道半ばで逝った。向田邦子のセンスのよさ、料理上手はつとに伝えられているが、優等生の娘のままで消えてしまったようで、私には残念でならないのだ。