写真を撮る時「ハイ!チーズ」という習慣が日本でできたのは、テレビのCMからだと記憶している。確かチーズのCMで、カメラを前に表情が堅い人に「チーズと言ってごらん」と声をかけたらあら不思議、素敵な笑顔になったというわけだ。

それからかなり経ち、30代の頃、ビジネスマナー講師の女性から「チーズよりウイスキーの方が笑顔が自然よ」と言われたことがある。なるほどと思いつつも、どちらもあまり使ったことがない。

さて、初めて日本で公開されるウルグアイ映画『ウイスキー』を観た。別にお酒がテーマではない。ウルグアイの人たちの、写真を取られる際の決め言葉が“ウイスキー”なのだ。

観て驚いた。地球の真裏にある南米の小国で、こんなスゴイ作品が出来るなんて。固定カメラで撮った構図、アングル。極端に少ないセリフと乾いたユーモア、役者たちの微妙な表情。その静かさの中に私はどうしても日本的なものを嗅ぎ取ってしまう。

出てくるのは零細の靴下工場の社長と、その従業員である女、社長の弟の3人だけ。みな初老で美しくもなく、特に社長とその従業員の女は口数も極端に少なく無愛想この上ない。

だが私はこの初老の女が大好きになった。突然社長から「弟が来ている間、自分の妻役をしてくれないか」ともちかけられた時、表情一つ変えずに「良いですよ」と答えたくせに、帰りのバスの中で、そっと笑みを浮かべるあたりゾクっとした。「なんだ、このおばさん、やる気満々じゃん」

このまったく華のないドリカムは、不思議なユーモアを醸し出しつつ、やがて切ないラストを迎える。

この映画は好き嫌いがハッキリ分かれる作品だ。退屈に感じる人も多いだろう。アル・カウリスマキ監督作品が好きな人、40代以上の人は、結構はまるかと思う。南米ウルグアイ、あなどれない・・・・。