子供の頃、“父親”は、理不尽な存在だった。

友だちと遊んでいても、母や姉と仲良くテレビを見ていても、父が帰宅をすれば楽しみはすべて終わり。
母はそそくさと晩酌と給仕に専念し、私たち子供は家の隅でおとなしくしないといけない。横柄で、機嫌が悪いと意味もなく怒鳴りちらし、酔っ払う。
父の働きで暮らしているのを知っているから、文句も言えず、ひたすら大人になって父から離れることを願っていたものだ・・・。

さて、私は女だが、男の子の場合そんな理不尽な父親とどう向き合っていくのだろうか。

ロシア映画「父、帰る」を観た。新人の監督だが見事な作品である。映像、カット割り、脚本、そしてもちろん俳優もすごいし、また音楽が泣かせるのだ。ちょっと無国籍風の、あえて言えばギリシャ悲劇を彷彿させる音作りだ。

物語は、母と祖母、2人の兄弟の住む家に、12年ぶりに父親が帰ってくる。今までどこにいたのか、何のために帰ってきたのか分らないままに、父子3人で唐突に旅に出ることになる。

この父がまた横柄で無愛想でやな親父なのだ。兄弟のうち兄は従順なのだが、弟は終始反抗的な態度で、さまざまなトラブルを起こしながらも、旅は続いていく。

物語はこの弟を中心に進んでいくのだが、ある事件がきっかけで立場が逆転する。日和見的でいつもぼんやりしていた兄が、頼りになる男へと変っていく。

普段目立たない男の子が急に大人っぽくなることはままあるが、こんなにあざやかに見せ付けられたのは初めてだ。

そして、謎を残したまま物語は終るが、それはこの作品が、子供の目線で描かれているからだろう。子供の目には父はいつも謎だ。なぜそんなに怒っているのか不機嫌なのか。

さて、素晴らしい演技を見せてくれた兄弟。とくに兄役の子は、まつげがくるりと長くて可愛らしい男の子だったが、なんとこの映画の撮影終了後、ロケ地でもあった湖で溺死したそうだ、ああ、人生は理不尽だ・・・。

父、帰る