先月、第一線のロシア語同時通訳者で作家の、米原万里氏が急逝した。まだ56歳。卵巣癌だという。

ショックだった。彼女の著作は『不実な美女か貞淑な醜女か』しか読んでいないのだが、その卓越した語り口、豊富な経験に裏打ちされたユーモア溢れる文章には魅了された。

語学ダメ人間には未知の世界である同時通訳の世界を、赤裸々に語り、読む方は大笑いしつつ納得してしまう。

これだけ自分を捨てて真実を語る女性もめずらしい。ナンシー関以来ではないか。彼女の「通訳=売春婦説」には思わず膝を打ってしまった。

そして、時々テレビ等で見かける彼女はグラマラスな美女であった。

お父上が日本共産党員だった関係で、子供の頃から東欧やソ連で暮していたそうだが、共産党員の娘というよりも、ロシア貴族の末裔といった雰囲気を漂わせていた。

それにしてもソ連崩壊という激動の時期、彼女自身は共産党崩壊に関して忸怩たる思いがあっただろうが、時代の転換期にその中心で活躍できた事は、羨ましく思う。

殆どの日本人が知りえない体験をし、通訳としても作家としても才能溢れた女性がいなくなるのは、これからの日本にとって大きな損失だろう。

                                         合掌