ワールドカップ観戦には、今まで関心がなかった国を身近に感じる事が出来る、という楽しみがある。

たとえば「セルビア・モンテネグロ」。恥ずかしながら私はこの名を知らなかった。だがこの国名もじき消えるらしい。
旧ユーゴスラビアなら、日本と戦った「クロアチア」もそうだ。
そして旧ソ連から独立した「ウクライナ」。またドイツのバラック選手は東ドイツ出身。

ソ連崩壊、東欧革命の嵐の中、ボールをけり続けた元少年たちの国歌斉唱の姿には心打たれるものがある。

ところで、急逝した米原万里氏の著『嘘つきアーニャの真赤な真実』によると、ヨーロッパ1の美男の産地はユーゴスラビア(旧)とのこと。

その血を引き継ぐセルビア・モンテネグロもクロアチアも一次で敗退してしまったのは、かえすがえすも残念だ。

さて、この『嘘つきアーニャの真赤な真実』は、著者が10歳から14歳まで過ごしたチェコスロバキア在プラハ・ソビエト学校の同級生3人との友情と、その後を追ったノンフィクションで、3編で構成されている。

まず、ギリシャから亡命した両親を持ち、まだ見ぬ故国にあこがれるリッツァ【リッツァの夢見た青空】
ルーマニアの要人の娘で、「打倒ブルジョア階級」と言いながら自分は贅沢な暮しを享受しているアーニャ【嘘つきアーニャの真赤な真実】
そして、ユーゴスラビアの民族紛争に巻き込まれたらしい親友のヤスミンカを探す
【白い都のヤスミンカ】

・・・・・・・・・完全に打ちのめされてしまった。幼い少女たちが、国を思い国家のことで小さい胸を痛めながらも、いじらしくも生き抜いていく姿に。ふりかえって、自分はいったい何をしてきたのだろう・・・。

そして「愛国心」とはいったい何なのだろう。

少なくとも自分は「愛国心」という言葉を軽々しく口にすまいと思った。

激しい殺し合いが続いたユーゴの、イスラム寺院での少年の言葉が心に残る。

【異教徒に対して寛容にならなくちゃいけないんだ。それが一番大切なことなんだ」

「愛国心」を持つなら、常に他国の「愛国心」も尊重しなければならない。簡単そうだが難しい。

だからこそ、ワールドカップで、試合の後、お互いの検討を称えあう選手の姿を見ると、救われる気になるのだ。テレビの力は大きい。
この大会が、良い見本になってくれたらと思う。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実