最近、癌で急逝した米原万里氏の著作を読むのがマイブームになっているが、もうすぐすべて読み終えそうで、とても切ない。

いままで私のカテゴリーにまったくなかった旧ソ連や東欧(今はそう呼ばないらしいが)についての目を開かせてくれ、英語圏以外の外国語と日本語の関係性という新しい世界を開かせてくれた。

それにしても氏はスケールの大きい人だ。例えれば、子供を6,7人育てているたくましいおかみさんといった感じか。だから書かれているものも、机上の論理ではなく、生活に密着したぬくもりが感じられる。

さて、氏はかなりの大食漢らしく、食べ物に関する話題も多いが、これはそれ、子供の頃の東欧暮しからか、不思議な食べ物が登場する。

その一つが、「トルコ蜜飴」

何とも字面だけ見てもヨダレが出そうではないか、トルコ蜜飴。

トルコは養蜂が盛んだ。きっとその美味しい蜜をたっぷり使ったお菓子に違いない。西洋のように牛乳や卵などは使わず、トルコ独特の香辛料をきかせたそのお菓子は甘く、それでいてひなびて郷愁をさそう味わいだろう、あのボスポラス海峡の夕焼けのように(つか行った事ないけど)

などと想像をたくましくしていたのだが、なんとそのトルコ蜜飴より100倍美味しいお菓子があるという。その名は「ハルヴァ」

プラハのソビエト学校で、ひと匙味わっただけのそのお菓子が忘れられず、幻のお菓子を求めて氏の苦しい旅が始まる・・・。

かように、氏の食べ物の話には、苦しみが付きまとっている。

小学校の頃家のゴミを燃やしていたら(以前は各々の家でゴミは処分していたのだ)見覚えのないバナナの皮を見つけ、知らない間に親が食べたのを知り泣きじゃくる。

ソビエト学校の林間学校で、『おむすびころりん』のお話をみんなに聞かせているうちにだんだん悲しくなり、夜も眠れず一週間苦しみ続け、とうとうプラハにいるお母さんに「おむすびが食べたい」と手紙を出す。

氏にとって食べる歓びより食べられない苦しさの方が心に残っていたのだろう。

癌の末期、ほとんど好物を口にすることは出来なかっただろう氏が、どうか今、天国で「ハルヴァ」を堪能していますように・・・。