最近ハマっているミュージシャンがいる。
イギリス出身のジェイムス・ブラントだ。

初めてその歌を聞いたときから、その声の透明さ、切なさが胸をついて離れなかったが、聞き込んでいくうちに不思議な歌詞の世界にも魅了された。

「you're beautiful」という曲、テレビのCMやドラマの主題歌で使われているから、ご存知の方も多いと思う。

初め、単純なラブソングかと思っていたが、実はこれPVでも分るように自殺の歌なのだ。

自殺に向う途中、電車の中で、好きだった女の子が彼氏と一緒にいるのを見かける。僕を見て微笑んでくれた彼女に、ただひたすら「君は美しい、君は美しい」と、称える。もう二度と会うことはないし、彼女が僕のことなど気にもかけていないと分っていても・・・。

何とも切ない世界ではないか。死を目前にして、もはや嫉妬や欲望から自由になった男の不思議な透き通った魂がそこにある。

この頼りなげなたたずまいのミュージシャン、ジェイムス・ブラントだが、実はもと英国軍人で、コソボ紛争の時はNATOの偵察将校として、3万人の平和維持部隊を率いて、当地に赴任している。

NATO軍のコソボ空爆は記憶に強く残っているので、ジェイムスがそれに多少なりとも関わっているのを知ると複雑な気持ちになるが、彼の音楽を聞くとそんな思いも消えてしまう。

武器を捨てた吟遊詩人は、これからも等身大の男の心象風景を、風に吹かれながら、切々と歌いつづけることだろう。