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これは私見だが、映画の名作には2種類のタイプがあるように思う。

ひとつは、観ている間は面白く、興奮して泣いたり笑ったりするのだが、終わったとたん、潮が引くように消えていってしまうもの。
もうひとつは、観ている時は、たいして感動はしないのだが、終わってしばらくたつうちに、じわじわと、まるでボディーブローのように効いてきて、しまいにはその映画のことで頭が一杯になってしまうもの。

先日、再上映館で観た『ブロークバック・マウンテン』は、まさに典型的な後者タイプの作品だ。

今年の4月に観たときなど、「へぇ、これがあのアカデミー最有力作品だったの、なんかいまいちだなぁ」と思っていたのだが、時間が経つにつれ、得体の知れない哀しみが、胸にじわじわとせまってきた。

そしてこの哀しみは、なぜか表面には表れず、内へ内へと向う。

今回の観賞も、一滴の涙も流さなかったのに、胸が切なく重い。そして言いたいことが山ほどあるのに、何を語ればよいのか分らず、とまどうばかりだ。

まず、ワイオミングの映像が悲しいほどに美しい。失礼な言い方かもしれないが、ホモの映画なのに、これでもかこれでもかというほどの美しい大自然。羊の群れ、雪を抱いた山々、はるか彼方まで広がる緑の牧草地・・・・。

これは、現実世界での男たちの暮しとの対比だろうか。

例えば主人公のイニス。
ラスト近く、彼は40歳を過ぎて、妻子と別れ、一人わびしいトレーラーハウス住まいをしている。仕事は牧場での季節労働。
元妻は再婚して幸せに暮らしている。
唯一イニスになついていた長女も、近々金持ちらしい家の男と結婚する。もう今ほど、会いに来ることもなくなるだろう。

孤独な中年男の唯一の支えは、たった一人の友だちであったジャックと過ごした、ブロークバック・マウンテンの思い出だけだ。

見ようによっては負け犬の人生だ。もっと上手く立ち回れば、と思われるところも多々ある。

だが、学もなく不器用な男が、自分でも思いがけない愛に戸惑い、身悶えながらも必死に生きてきた20年の日々は、決して無駄ではないと信じたい。

イニスには、これからもつらい生活が続くだろう。

だからこそブロークバック・マウンテンの思い出は心の中で色褪せず、彼を照らし出してくれるはずだ。

ブロークバック・マウンテン