adachi2足立美術館の感激がさめやらぬ今日このごろだが、和風庭園と横山大観の名作は王道として、他に強い印象を持ったのが、上村松園作の『待月』と北大路魯山人の作った器の数々である。

実は上村松園の実物を見たのは、今度が初めてであった。

何というたおやかさであろう。抜けるように白い肌と水色の薄物の着物。うっすら透けて見える赤い柄の長襦袢。

松園美しく結い上げた日本髪の、鹿の子絞りの髪飾りの角のぽつぽつまで丁寧に描いているのがさすがだ。

この絵が描かれたのは昭和19年。戦争真っ最中で、町中では国防婦人会の怖いおばさんたちがモンペにかっぽうぎで、「ぜいたくはやめませう」とか「長い袖は切りませう」とか行ってハサミを持ってうろうろしていた時期だ。

戦局も何のその、悠々と、しどけない贅沢な若妻の姿を描いた松園を想像するとなんだか楽しくなってくる。

さて、美術館の中の北大路魯山人室を見ていると、無性にお腹がすいて来た。

とにかく魯山人の器は食欲をそそるのである。

「美しい」、と思うより「ああこのお皿に金目の煮付けを盛って食べたいなぁ」と思わせてしまう、不思議な作品ばかりだ。

魯山人については、美食家でずいぶん意地の悪いじいさんというイメージを持っていたのだが、展示されている器はどれも可愛い。

そんな訳で、腹を空かせて美術館を出た私が、松江の旅館でカニを始めとする海の幸をタラフク食ったのは言うまでもない。