香水先日観た映画『パフューム』の印象忘れがたく、ついに原作本を読むことにした。

本を手にとるまで知らなかったのだが、作者は、パトリック・ジュースキントというドイツ人。ちなみに訳者は、ドイツ文学者やエッセイストでおなじみの池内紀さんである。

ページをひもとくや否や、おびただしい腐臭の描写に辟易する。

出てくるわ出てくるわ、パリの臭い、ゴミ、汚物、腐った魚や野菜、人々の汗や体臭・・・・。

だが不思議なもので、強烈な臭いに鼻が麻痺するように、悪臭の描写も、時間がたつにつれ、平気になってくる。

それにしても、ドイツ人が、パリの街をかように、臭い臭いと言うのは、いかがなものか。

私自身、「ブス」や「ババァ」となじられるのは平気だが、「くさい」と言われるとかなりへこむ。何か自分の人格を否定されたような気がするから。

フランス人からは、クレームはなかったのだろうか。

さて、原作のグルヌイユは、映画版に比べてはるかに悪魔的で冷血な男だ。まるで恐ろしい毒虫が、人間に姿を変えて現れたような。

そう、この本はグルヌイユという昆虫が生まれて死ぬまでの話なのだ。

長いさなぎの時代を耐え、やっと栄光をつかむや否や、あっと言う間に消滅していくそのあざやかさ。

その有様に恐怖を感じつつも、そのひたむきな一途な姿に、なぜか羨望の目を向ける自分がいるのだった。

香水―ある人殺しの物語