星飛行気乗りであったフランスの作家、サン=テグジュペリの書『人間の土地』を読んだ。

この人の本は、昔々絵本で『星の王子様」を読んだきりで、美しい物語を残し、夜間飛行のはてに星空へ消えていったむちゃロマンティックなパイロットというイメージしかなく、特に興味はなかった。

ところが最近読んだ池波正太郎さんのエッセイで、氏は、もっとも影響を与えた書物に、サン=テグジュペリの小説・エッセイを挙げているのだ。

株で大もうけしながらも、荒れた日々を過ごしていた若い日、『人間の土地』と出会い、激しい衝撃と共に、自分を情けなく思ったという。

何が池波氏の心を惹きつけたのか、知りたくて本をひもといたが、読後、満足感で一杯になる。

まず冒頭の「ぼくら人間について、大地が、万卷の書より多くを教える。理由は、大地が人間に抵抗するがためだ」に、しびれる。

そして、20世紀初頭のパイロットという、死と隣り合わせのリスキーな職務につきながらも、彼とその僚友たちの言葉や行動の、なんと詩的であることか。

サハラ砂漠で遭難し、3日間飲まず食わずでさ迷い歩くさまも、まるで苦しみが極限に達し、その苦しみがもはや貴重な甘露のようで、自分もその恐ろしい体験を味わってみたくなる。

当時アフリカの国々はフランスの植民地だったから、サン=テグジュペリもアフリカ人に対して、差別意識からは逃れられない。

だが彼はかの地の人々を軽蔑はしていない。

珍らかな客人として彼らと接している。

サン=テグジュペリが軽蔑しているのは、机の上で、何もせずに文句ばかり言う小役人だけである。

彼の澄んだ瞳で見つめられたら、きっと自分が恥ずかしくて、身の置き所がなくなるだろう。池波氏も同じだったに違いない。

彼は、悪しき行動主義者ではない。彼は農民が鍬を使うように飛行機を扱う。あるいは園丁が薔薇を丁寧に育てるように・・・・。

そのようにして人も育てられるのだ。

精神の風が、粘土の上を吹いてこそ、はじめて人間は創られる。

人間の土地