三島由紀夫の、豊饒の海・第三巻『暁の寺』は色彩豊かな物語だ。

第一巻の『春の雪』がいかにも春霞のような、淡いみやびな色調で、それが第二巻『奔馬』ではbara一転、憂国の士が主人公らしく、地味で無機質な鈍色の世界だったのと比べると興味深い。

『暁の寺』は総天然色(表現が古いが)とでもいうべき世界で、戦前のシャムやインドの仏閣が、たびたび象徴的に出てくる。

でもそれらの色彩は美しいだけではない。
薄汚れて醜く古ぼけてさえいる。

それは登場する人間にも当てはまる。

『春の雪』では物静かで理知的な19歳の学生、『奔馬』では38歳の裁判官で、前途洋洋だった本多繁邦が『暁の寺』において、えらい変貌をとげているのだ。

ようするに単なるエロじじぃに成り下がっていたのだ。

これには、密かに本多ファンだった私はショックだった。

思いがけない大金が入り、表向きは成功した弁護士だが、その隠れた性癖には目を覆いたくなる。

ああ、『春の雪』では、美貌の主人公を暖かく見守る、頼りになる知的な親友という、耽美派少女マンガにおいては一番おいしい役どころだったのに(つかこれ、マンガじゃないけど)

やはりこれは老いがなせる技だろうか。

つか三島由紀夫は老いに対して、憎しみさえ抱いているようだ。

この作品が発表されて半年後、彼は自決するのだが、自分が45歳で死ぬからといって、長生きの人をこんなに醜く扱わなくてもいいのに。

さて、豊饒の海の最後、第四巻、『天人五衰』では、本多は70過ぎだ。

本多のお爺ちゃんと一緒に、輪廻転生の最後を見極めたい。

暁の寺