DVDで、ドイツ映画『善き人のためのソナタ』を観た。

時代は1984年の東ドイツ。

まず注目したいのが、主人公ヴィースラー大尉を演じたウルリッヒ・ミューエ。

この人旧東独出身の俳優なのだが、先月の22日に胃癌で亡くなっている。享年54歳。

なんと彼は、東ドイツ時代、女優である妻によって10年以上も密告され、国家保安省に監視され続けてきたのだ。

ベルリンの壁が崩壊した頃は36,7歳か。
つまり結婚して間もない頃から、ずっと密告され続けたことになる。

なんという壮絶な生活だろう。

『善き人のためのソナタ』において彼は、自分とは反対の立場、国民を盗聴・監視し、少しでも反社会主義であればしょっぴいて尋問する、体制側の官吏役を演じている。

彼にとってこの役は、精神的に辛かったのではないか。
ストレスで命を縮めたのでは、と余計な事を考えてしまう。

東ドイツ出身のメルケル首相も、この映画のチケットは買ったが、観るのが辛くて、直前にキャンセルしたと語っているのだから。

さて、観てまず印象的なのが、主人公ヴィースラー大尉の、愚直とも言える忠誠心と、殺風景な心象風景だ。

出世や自分の欲望は一切なく、ただ社会主義のため国家保安省の盾として、黙々と任務を遂行する。

だが、アパートに帰れば、飾り気のない部屋で1人、ご飯にケッチャップのようなものをかけて夕食を済ませるような生活。

そういえば彼らの食生活は貧しい。社員食堂で食べるお昼ごはんも、スープとお茶だけだ。エリートの彼らでそうなら、一般の国民はもっと貧しかったに違いない。

そして、劇作家と女優の情事を盗聴した後、彼は、自分のアパートに安っぽい娼婦を呼び、やがて彼女が帰ろうとすると、「もう少し一緒にいてくれ」とすがりつく。彼の心の空虚さははかり知れない。

だが件の劇作家の盗聴を続けるうちに、彼の中で少しずつ変化が起きる。やがて彼は思いがけない行動をとる・・・・。

正直、映像は暗く、重苦しい雰囲気の漂う作品だが、ラストの主人公の表情には救われた、心からホッとした。

う〜ん、最初の意見撤回。

ウルリッヒ・ミューエ。やはり彼はこの作品に出て、満足して逝ったに違いない。