上映終了の日に、アメリカ映画『ボーン・アルティメイタム』をやっと観た。
「とても良かったよ」という評判を聞き、興味を持っていたのだが、シリーズの前2作品を観ていない。
レンタルで2作品を見て復習(予習かな)して映画館に行こうと思っていたのだが、同じことを考えている人が多いのか、ビデオ屋はいつも貸出中。
上映終了日の2日前、やっと2作品を借りて観て、あわてて映画館へ駆けつけた次第だ。
観終わった後、思った。
もっと時間をかけ、自分の中でこのシリーズを熟成させ、満を持して『ボーン・アルティメイタム』に挑みたかった。
そうすればもっと深い感慨を味わえたかもしれないのに・・・・。
さて、この物語の重要なポイントに『記憶』というのがある。
ボーンは高い身体能力と並はずれた頭脳を持っている。
格闘はもちろん武器やカーチェイスもこなし、パソコンや携帯に熟知し、数か国語を話す。だが彼は記憶喪失者である。
どうやら彼は、知識や語学といった意味記憶、車の運転や格闘といった体で覚えた手続き記憶はあるが、いわゆる「思い出」と呼ぶ、「エピソード記憶」が欠落しているらしい。
感情を伴うエピソード記憶を失った彼の心は砂漠のように殺伐としている。
昔テレビのドキュメンタリー番組で、前向性健忘症の男性の毎日を追ったものがあった。
この男性は『博士の愛した数式』の博士のように、新しくものを覚えることができない。一晩経つとすべて忘れてしまう。
だから、この病気になったあと生まれたわが子の顔を覚えることができない。
だが、やはり病気のあとに覚えたワープロは忘れずに使えるのだ。
ワープロは覚えられるのに、わが子の顔は覚えられない。この砂をかむような孤独、切なさ。脳とは時に残酷なことをするものだ。
障害の種類は違っても、ジェイソン・ボーンも同じような孤独を味わっていたのだろう。
ところで、このシリーズ三部作に全部出ていたCIAの諜報員のニッキー。
ちょっと林家三平の娘に似ているぽっちゃりした女性だが、この3作目において、なんとボーンと過去に関係があったことが分かった。
今回、この2人はかなり接近するが、相変わらずボーンは気がつかない。
このニッキーの切ない表情から、ラストの微笑みまでの流れが秀逸だ。
マリー、パメラ、ニッキー・・・。
ジェイソン・ボーンの超人的な能力ももちろんだが、女たちの精神的な強さに感じ入ったこのシリーズであった。
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