私の家系は漢方でいうところの「虚」の体質である。
血うすく、顔色悪く、低血圧。

だが体力がない割には、あまり大病もせず、おおむね長生きだ。

だが長生きすればするで、また別のリスクも発生するし、困ったもんである。
潜水服2そして脳梗塞の原因とされる、肥満、高血圧、心臓病も一応無縁だ。

さて、『潜水服は蝶の夢を見る』というフランス映画を観た。

この秀逸なタイトルのついた作品は、脳梗塞の発作で、左目以外自由を失った男の心象風景をつづったものだ。

まず出だしがこわい。

主人公、ジャンの左目の視線で映画は始まるのだが、病院でこん睡から目覚め、じわじわと自分の体が全身麻痺したのだと自覚していくときの恐ろしさ。

潜水服というよりも棺桶に入れられ、小さな穴から外を覗いているようだ。

やがて医師が「角膜が乾いてますね、目を縫い付けましょう」といってジャンの心の悲鳴にも関わらずまぶたを縫い付けていく。
少しずつ消えていく視界。

「おいおい、目を縫い付けて真っ暗になったらまさしく生き地獄じゃん、やめてくれ〜」と心で叫んでしまったが、よくみたら縫いつけられたのは右目。左目はまだ見えるのだ。思わずほっとする。

潜水服1さてこの作品、闘病ものにしては明るく、そしてお洒落だ。

それはジャンがフランス版ELLEの名編集長で、洒脱で皮肉屋の男だからだが、医師や療養士の話しかけに、いちいち心の中で絶妙な突っ込みを入れるのが面白い。

登場する言語療養士らも魅力的な人ばかりだ。

魅力的と言えば、言語療養士や元妻、恋人や女性編集者が皆、金髪の妙齢のいい女ばかりなので外人顔の区別が苦手な私は、最初わけわからなかった。

そしてジャンは左目のまばたきだけで自分の自伝を出すという、気の遠くなるような作業を始めるのである。

大変感動的ではあるが、ひとつ気になったのは、この作品の中で「お金」という言葉が1回も出てこなかった事である。

フランスの医療制度のことは詳しくないが、ジャンが自分の自伝を書けたのはずばり、彼が裕福だったからだろう。

お金の心配もせず、手厚い医療と看護を受けられる環境でないと出来ない偉業である。

彼のように裕福ではない人が同じ状態になったらどうすればいいのか。

いくら健康に気をつけたって、病はある日突然やってくる。

ジャンだって酒も煙草もやらない、まだ42歳の男だったのだ。

それはやはり、彼が映画の中で言っていた「記憶」「想像力」そして付け加えれば「突っ込み力」であろうか。

潜水服は蝶の夢を見る