最近、通勤途中やウミガメ時間待ちの時など、イタリア語の同時通訳者、田丸公美子さんのエッセイをよく読んでいる。

軽妙なノリで、首相からマフィアまで、同時通訳者だからこそ知りえた、陽気なイタリア人の赤裸々な姿が描かれており、ちょっとした時間つぶしには最適だ(こんな書き方をしても田丸さんは怒らないだろう。彼女にはそんな割り切った潔さがある)

同じイタリア関係でも、須賀敦子さんや塩野七生さんとは違う、よくぞこんなシモネタをあつめたものかと思う。(イタリア男についてはちょっとステレオタイプすぎる気もするが、彼らと付き合ったことのない私には何とも言えない)

だが軽いだけではない。
例えば『シモネッタのデカメロン』の中の「子連れ狼」で有名になった子役の話には胸が詰まった。

そして最後の解説とあとがき。急逝したロシア通訳者、米原万里さんの対談と、彼女と過ごした最後の一年が描かれていたのだ。

カフェで気軽なブランチを楽しんでいたら、最後にいきなりフォアグラが出てきたような感じだ(いや米原さんだからキャビアか・・・)

2人は年も近く、同時通訳仲間で親友だったらしい。

正直、彼女らの力量の差は歴然としている。

共産党幹部の両親を持ち、ある意味英才教育を受けて育った天才肌の筆致に、田丸さんは到底及ばない。

彼女のエッセイは面白いのだが、米原さんのような軽やかさがなく、どことなく必死さが感じられて、ちょっとつらくなる時もある。

でも2人の間の友情は本物だったのだろう。

田丸さんは、今でも米原さんの飲み残した薬袋を大事にとっていて、時々手に乗せ、想い出に浸るという。

このあとがきを読んで確信した。

散々けなしてきたが、いつか彼女はすごい傑作を書くだろうと。