『Cut』という月刊誌の4月号で、「恋愛映画ベスト30という特集をやっていた。

栄えある1位はウディ・アレンの『アニー・ホール』で、2位はゴダール監督の『勝手にしやがれ』とのこと。

実は『アニー・ホール』は観たことがない。
ウディ・アレンの映画は、2,3本観た記憶はあるのだが、ほとんど印象に残っていない。

それだけ自分は、感性が乏しいということだろう。

夜さて、私個人の恋愛映画ベストを考えてみると、どうしても1位に来てしまうのが、王家衛(ウォン・カーウァイ)監督の『ブエノスアイレス』だ。

南米アルゼンチンのブエノスアイレスで過ごす香港のゲイカップルの話が、なぜ究極の恋愛映画になるのか自分でも理解できないが、この作品によって、私はあきらかに心をかき乱され、冷静さを失った。

まずこの同性愛のカップル、ファイとウィンだが、もの凄くかっこ悪い奴らなのだ。

歳の頃は30過ぎでもう若くはない。普通の男なら職を持ち家庭を築くべき年齢なのに、今だにブラブラとまともな仕事にも就かず、お互い痴話げんかを繰り返しては、くっついたり離れたりの日々。

挙句の果てに、2人「やり直す」ために香港のま裏、南米のアルゼンチンに行くのだが、地図もろくに読めない彼らはドライブ中、道に迷い、またケンカしてしまうという体たらく。

2人の住む場末のアパートは、赤や緑のどぎつい装飾に彩られ、センスのカケラもない。

ブエノスアイレスやぼったい古着をまとった彼らの顔は、どす暗くよどんでいて、わざとそんな照明をしているのか、常に顔色が悪い。

だが、そんなダメな、どうしようもない彼らだからこそ、狂おしいほどいとおしく、抱きしめたくなるのだ。

世界中から見放されたような2人が、アパートのうす汚れた共同キッチンで抱き合ってタンゴを踊る時、その陶酔感は、彼らだからこそ享受できる悦びなのだ。

だが、そんな蜜月も束の間、2人は再び深刻な争いをする。

原因は、レスリー・チャン扮するウィンが、今の現状に満足しているのに対し、トニー・レオン扮するファイは、「いつまでもこのままではいけない」と内心あせっており、でもウィンとは離れたくない、出来れば彼を独占しブエノスアイレスのバスたいと願っているからだ。

やがて矛盾した心のせめぎ合いが彼の心をイラつかせ荒れていく。

そんな生き地獄のようなファイの前に、ひとすじの蜘蛛の糸のように現れたのが、台湾から放浪の旅に来ていた青年、チャンだ。

チャンに導かれ、ファイはやがて「生還」を果たすのである。

そしてファイに去られた後のウィン。

チャン・チェン古い毛布を抱きしめ、まるで母鳥から捨てられたヒナのように大泣きする姿には胸が詰まる。

彼は世界の片隅でこれからたった1人、どうして生きていくのだろう。

そしてラスト、

永らく映画を観てきたが、これほど胸のすく、清々しいラストシーンはない。

この一瞬のために、1時間30分が費やされたのだと思うほどだ。

なんだか支離滅裂な文章になってしまったが、「恋愛」はいつも、人の心をかき乱し、冷静さを失わせるものだから仕方ないか。

ブエノスアイレス