村上春樹のファンのことを「ハルキスト」というそうだが、実は私、彼の小説が苦手である。

何度もトライしてみたが、あの都会的でクール、かつ不吉な予兆を感じさせるスタイルが、泥臭い私の体質には合わないようだ。

言うなれば、高級化粧品のファンデーションなのに、自分の肌にはなじまない、といった感じか。

「村上春樹のファンだ」という人を見つけるたびに羨ましく思い、仲間入りしたいなと思いつつなかなか叶えられない。

でも、エッセイは好きだし、小説でも、短編なら気に入った作品がいくつかある。

さて、『トニー滝谷』という日本映画のDVDを観た。
原作はもちろん村上春樹。

そう言えば、彼の作品はあまり映像化されていない。
彼自身、映画にも造詣が深いのに不思議だ。

ミステリー作家の伊坂幸太郎氏など、やたら映画化しているのに・・・。

まぁとにかく『トニー滝谷』だが、原作は、短編集『レキシントンの幽霊』に収められている(この短編集では私の好きな「めくらやなぎと、眠る女」もあるのだ♪)

映画で、主役のトニー滝谷とその父親役はイッセー尾形。

孤独の中で呼吸しているような男を見事に演じている。

そして彼の妻になるのが宮沢りえ。

まさしく現実離れした美しい女だ。

理想的な妻でありながら、際限なく高級ブランドの服を買い求める女、なんて矛盾した役、彼女以外に適役がいるだろうか。

孤高の男の束の間の安らぎ、喪失、そして再び訪れた孤独。

寂しい結末なのに、なぜか明るい印象を残して物語は終わる。

上映時間をみると76分。普通の映画よりかなり短い。

私的にはちょうど良いくらい。これ以上長くなると、ちょっと辛くなっていたかもしれない。

そして思った。映画や短編ではなく、ゆっくり村上春樹の長編を楽しむ日がいつか来るのだろうか・・・。

レキシントンの幽霊 (文春文庫)