昔々、TVで貧困のニュースなどを見るたびによく思ったものだ。
「どうしてぞうへいきょくでおかねをたくさんすらないのだろう。そうしたらみんながおかねもちになるのに」
そんなことをすれば、超インフレになって経済が大混乱することなど知りもしない、幼き日々であった。
さて、ドイツ映画『ヒトラーの贋札』を観た。
これは、幼い豚児とは逆の考えで、多量の贋札を作り、連合国側の経済を大混乱させようとしたナチス・ドイツと、贋札造りに従事させられた、強制収容所のユダヤ人たちの攻防の物語である。
この贋札計画は、『ベルンハルト作戦』と呼ばれている。
なお劇中、ヒトラーは登場しないし、名前も出てこない。
まず贋作の罪うんぬんは置いといて、ユダヤ人技術者たちの腕の巧みさ、手際の良さに見とれた。
特に主人公のサリー。元はパスポートの偽造や偽札造りを生業としたプロの贋作師なのだが、紙質や手触り、色、風合いなどを加味し、全く本物と見まごうポンド紙幣を作り上げる過程など、まさに巨匠ともいうべき神業である。
そして彼らがその仕事に従事している限り、悲惨な強制収容所での重労働は免れ、清潔な白いベッドと暖かい食事、そして多少なりとも人間らしい扱いを受けることができる。
なんとここでは、ナチス親衛隊とユダヤ人らが一緒に演芸会を開いて楽しんでいるのだ。その芸達者ぶりには驚かされる。
だが、ユダヤ人技術者のうち、印刷技師であるブルガーは、自分たちの行為がナチスの戦況を有利にし、連合国側に多大な経済混乱を招くことに悩み、印刷を遅らせようとする。
当然彼らの意見は二つに分かれた。
生きるために造り続けるのか、それとも正義に準ずるか・・・・・。
私の眼には正義を貫こうとするブルガーの方が、冷酷で情け容赦ない人間に見えた。
なぜなら贋作を止める=死、なのだから。
ところで、ナチス・ドイツがこの「ベルンハルト作戦」を考えたのは、かつて彼らがハイパーインフレに苦しんだ経験があるからだろう。
第一次大戦後、敗戦国ドイツは、戦勝国に対して天文学的な賠償金の支払を負うことになった。
それが引き金で、ドイツはハイパーインフレとなり、1年間で対ドルレートが7ケタ以上下落し、100兆マルク紙幣も出たという。こうなるともう笑うしかないか・・・・。
ここまでドイツを追い込んだ戦勝国らは、再び悲惨な戦争を迎えることになるのだ。
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