『エレファント』というアメリカ映画のDVDを観た。

これはあの1999年起こった「コロバイン高校銃乱射事件」をモチーフにした、ガス・ヴァン・サント監督の作品だ。

この事件をモチーフにした映画には、マイケル・ムーア監督の『ボウリング・フォー・コロンバイン』がすでにあり、銃社会アメリカをドキュメンタリーで、赤裸々に描いている。

一方『エレファント』は、乱射事件の日の数時間を淡々と描いている。

そもそもなぜ『エレファント』という題名なのか。

調べてみるに、中国の経書から来ているらしく、盲目の僧侶たちが象にふれ、耳、鼻、牙、尻尾を触った者それぞれが、自分の触ったものこそ像の本質だと主張して譲らなかった寓話から来ているそうだ。

さて内容だが、ハンディカメラを多用したドキュメンタリータッチの映像で、素人高校生が演じるセリフはほとんどアドリブだそうだ。

学生、特に男の子たちはうつくしく描かれており、この後、起こるであろう惨劇を思うと、はかなさ、残酷さが身にしみる。

そして構成は、黒澤監督の『羅生門』に似ている。

ここで描かれる高校なのだが、なんだか閉そく感が満ちて息が詰まりそうになる。

高校生はそれぞれカジュアルな服装で、届け出をすれば外出も自由で、先生と学生が一緒に性について語り合い、校舎は広く清潔感にあふれている。

それなのに妙に息苦しい雰囲気。まるで高校ではなく病院のようだ。それも郊外に作られた設備の整った、しかし無機質で冷たい感じ。

学生らは自由を謳歌しているように見えて、みなそれぞれ不安と孤独を抱えている。

校則に縛られ、制服が義務の日本の高校の方が、まだホッとできる隙があるような気がする。

なぜ2人の高校生は銃を乱射したのか。

銃社会だから、いじめがあったから、と決めつけたら、経書に出てくる盲目の僧侶と同じになってしまう。

それにしても、主犯格の少年の、つぶらな澄んだ瞳を見るにつけ、青春の残酷さに胸がつまる。