休暇』という日本映画を観てきた。原作は吉村昭氏の短編。

以前から気になっていたのだが、上映している劇場が少なくて、おととい、やっとこさで観ることが出来たのだ。

妻と連れ子水曜、レディスディの夕方なのに、観客は私を入れても6人ほど。しかし期待以上に良かった。心が震えた。

さて内容は、50歳くらいとおぼしき刑務官、平井が見合い結婚をすることになった。初婚だ。

相手の女性には6歳の可愛い男の子がいるのだが、この子が無口で一日中絵ばかり描いて、平井になつこうとしない。

平井は、この幸薄そうな母子のために新婚旅行に行きたいと思うが、母の葬式などで有給を使い果たしている。

ちょうどその時、平井の勤める刑務所で3年ぶりに死刑が執行されることになった。
その際死刑囚の支え役(吊り下げられた死刑囚の体が、上から落ちてくるさい、痙攣する体を支える役)をしたものには、特別に一週間の休暇西島くんが与えられるという。

そして平井は休暇をもらうため、その嫌な仕事を引き受けるのだ・・・。

物語は、つつましい新婚旅行に出かける3人と、死刑囚を中心とした刑務所の様子が、交互に描かれている。

静かな映像には、説明というものがほとんどない。

平井がなぜずっと独身だったのか、妻の前夫はどんな人でなぜ死んだのか。

死刑囚の男、金田は老夫婦を殺したらしいのだが、その理由もいっさい分からない。

この金田という男、独房の中では、清潔なボタンダウンのシャツとズボンで、髪もこざっぱりとし、たたずまいも静かで、いつもスケッチブックに絵を描いている。

死刑囚には見えないところが逆に不気味で、いつ切れるか分からない時限爆弾のような危うさがある。

看守と死刑囚また極端に口数が少ない。というかほとんどしゃべらない。

久しぶりに妹が面会に来ても、2人とも黙ったまま・・・・・。

テレビだったら明らかに放送事故と思われる長い沈黙。
確信的というか、暴力的ともとれる沈黙の中で、その分観ている私の頭に色々な想像が浮かんでは消える。

兄は妹の一生を台無しにしたことを悔やんでも悔やみきれずにいるのか、妹は死にゆく兄に何を言おうと思っていたのか、それともこの二人には、他人には伺い知れない深い秘密があったのか。
そもそもあの殺された老夫婦、もしかしたら金田の両親なのでは?

それにしても金田役の西島英俊の演技は、すごいとしか言いようがない。

特に死刑執行が決まってからの彼はリアルで凄まじい。

すっかり諦観しているように見えながらも、いつもの看守と違う足音にびくつき、今からと知った時の、腰がへなへなになる様子。だが暴れる訳でもなく、看守らに抱きかかえられるようにして死刑に向かう姿・・・・。

執行されるまでの様子があまりに緊張感があり過ぎて生々しくて、苦しくなってきた。

そして、一日中絵ばかり描いている寡黙な少年と、やはり一日中スケッチブックに向かっていた無口な金田の姿、また少年を抱きしめる平井と、痙攣する金田の体を抱きしめる平井の姿が気味悪くシンクロするのだ。

物語はラスト、平井とその妻、少年の幸せそうな笑顔でホッとした。

死にゆくものもあれば、これから生きていく人もいる。

ああそういえば、この映画が公開されたころ、あの鳩山法務大臣の「死神」発言があったっけ。。。、

蛍 (中公文庫)
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