蜜月は短く・・・初めに言葉ありき、
言葉は神と共にあり、
言葉は神なりき。

有名な聖書の言葉だが、その影響か欧米社会では言葉による自己表現のスキルの高さが、その人物の評価につながる。
言葉が何より重要なのだ。

だからいい歳をした中年夫婦でも「愛してるよ」「愛してるわ」と繰り返す。

一方、かつて日本は慎ましいのが美徳とされ、声高に発言するよりも、察し合うことが求められた。

空気を読んだり言葉の裏を読んだり気を使ったり、ずい分面倒なことパリに行きたいで、いっそ西洋のストレートな物言いが羨ましく思うこともある。

でもすべてを包みかくさず話すことは、話し手も聞き手も、ハードなエネルギーを要する作業だ。
ましてそれが受け入れ難い、耐えがたいことだったら、聞き手はどこに逃げたらいいのだろうか。

レボリューショナリー・ロード〜燃えつきるまで』という映画を観た。

レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットという「タイタニック」コンビ久々の主演作ということで、ロマンティックな恋愛映画と思ったら大間違い。

これはある幸福な夫婦が、ゆっくりと自己崩壊していく物語なのだ。

1950年代、フランク(レオ)は会社員。エイプリル(ケイト)は専業主婦。アメリカ郊外の新興住宅街に一戸建ての家を持ち、2人の子供にも恵まれ、はた目には、知的な幸福な夫婦に見える。

だが夫は毎日の決まりきった生活にうんざりし、結婚前女優を目指していた妻は、地元の素人劇団に参加しているが、ぱっとせず、鬱積が溜まっている。

ある日彼女は夫に、パリに移住しようと切り出す。
こんな虚しい単調な毎日を捨てて、パリで自分らしい生き方をしようと。

こんな突拍子もない話、聞き流せば良いのに、その日職場の女の子と浮気をしていた夫は、妻に対する負い目と、また仕事でイヤなこともあったので、エイプリルの話に耳を傾ける。

そして2人はパリ移住計画に夢中になるのだが、様々な障害が起こり、やがてエイプリルは、だんだん神経に異常をきたしていく・・・。

・・・・う〜ん、とにかくレオとケイトの演技が上手い。いや彼らだけでなく、隣人のブルーカラーのカップルや、家を世話した不動産屋の老夫婦、みな芸達者ばかりで見ごたえがある。

ラブラブだったのに大きな事件がある訳ではない淡々とした物語ながら、飽きさせないのは、演劇畑出身のサム・メンデス監督の手腕と、俳優陣の巧みさだろう。

特にレオは上手い。ケイトはアカデミー賞の常連だがエキセントリック過ぎる気がして、逆にレオの受け身の演技に好感を持った。

それと、不動産屋の老夫婦の息子で、頭脳明晰ながら精神を病んでいる青年ジョンを演じたマイケル・シャノン。上手い。アカデミー助演男優賞候補なのもうなずける。

ジョンは精神を病んでいる分、鋭い直観力を持ち、若夫婦の欺瞞をするどく指摘する。それがすべて的を得ているのでフランクとエイプリルは激しく動揺するのだ。

狂気の演技このマイケル・シャノン、どこかで見た顔だと思ったら、以前「8Mile」という映画に出ていた。エミネム演じる主人公の、高校の上級生で、主人公の母親(!)とできてしまう男で、しかも昼間っから酒びたりで仕事もしない、エミネムからしたら殺したいほど憎らしい役だ。

閑話休題、このジョンの母親のヘレン(「タイタニック」の時の成金夫人役だったキャシィ・ベイツが好演)だが、表向きはいかにも親切で社交的だが、陰では際限なく人の悪口を言い、たぶんジョンはそんな母の影響で神経を病んだと思われる。

「あなたたちは特別な人だから」

これはヘレンの、高い家を売るための常套句にすぎないのだが、フランクとエイプリルはどうやら真に受けてしまったらしい。悲劇はここから始まったのかも。

そしてフランクはあまりにも真摯に妻の話に耳を傾け過ぎたのだ。
そのため逆にエイプリルは逃げ場を失ってしまった。

ではどうすれば良かったか。

それはこの物語のラストに象徴的に描かれている。

そんな訳でこの映画、恋愛中のカップルや新婚さんにはあまりおすすめ出来ないかも。

レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで (ヴィレッジブックス)
レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで (ヴィレッジブックス)
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