その青年の事件を知ったのは数年前、英会話教室のテキストに載っていた物語からだ。

アメリカ東部の大学を最優秀の成績で卒業した若者が突然、お金もクレジットカードも車も捨て、家族や友人に何も告げずに放浪の旅に出た。

コロラドの激流2年後、彼はアラスカにいた。過酷な大自然の中でたった1人、獲物を捕り、植物を食していたが、間違えて毒入りのじゃが芋を食べたことで衰弱し、餓死してしまう。

当時私を含めた英会話の生徒たちや教師は、彼の行為に、「愚かだ」「大自然をなめていた」「勝手すぎる」などの否定的な感想を持ったものだ。

だから、その若者の実話が、ショーン・ペンによって映画化されたと知った時は、ちょっとびっくりした。

イン・トゥ・ザ・ワイルド』という映画がそれである。

なぜ前途有望な若者は、24歳の若さでアラスカの荒野で1人、餓死しショーン・ペン監督と主人公てしまったのか・・・。

観終わった後思った。数年前おざなりなテキストの文章を読んだだけで彼を『愚か』だと決めつけた自分こそ『愚か者』なのだと。

この若者クリスこそ、私の理想の生き方であり死に方だ。

私も出来ることなら、彼のように大自然の中を生き抜き、真理を求め、大自然の中で死にたかった。

さて、クリスは優秀で純粋な若者だが、決して浮世離れした修行僧のような男ではない。

旅で知り合った荒くれ者やヒッピーたち、若者や孤独な老人、様々な人と出会い、楽しく語らい、一時の幸せを彼らに与えていった。

本物のクリスただクリスはあまりに考え過ぎるきらいがある。

そして、突出し過ぎる精神のバランスをとるように、あえて肉体を厳しい大自然にさらしていく。

なぜ、考え過ぎるのだろうか。

幼い頃から彼と妹は、いがみ合い罵り合う両親を目の当たりに見て育ってきた。

親への不信感は根強く、放浪の旅に出ても、その呪縛が彼を苦しめるのだ。

ここで多くの人は思うだろう。

「両親は一生懸命働いておまえを育て、大学まで出させてくれた。生活のため喧嘩することもあるだろうがそれがなんだ。大学を卒業したくせにまだ根に持っているのか。大人になれ!」と。

確かにそうなのだが、親に対して愛したくても愛せないと状況いうのは辛いものだ。

そして純粋な彼は「仲の良いふり」をすることが出来ないのだ。

その発散出来なかった愛を、彼は旅先で出会う人たちに与え続けたのだろうか。

そして・・・・、人生最後の時、アラスカの青空を見つめながら、クリスは真理を知り、両親を受け入れたのだと信じたい。旅と人生

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PS、クリスが誤って食べたのは毒入りのじゃが芋ではなくて、スイートピーの根(毒がある)だそうだ。ワイルドポテト(食べられる)とよく似ているので間違えたらしい。

荒野へ (集英社文庫)
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