中国清末期の時代を描いた、浅田次郎の長編小説『蒼穹の昴』全4巻を読み終えたのだが、いまいち肩すかしをくらったような感じだ。
物語自身は大変面白かった。数々の登場人物は、それぞれキャラが立っていてつい感情移入してしまうし、達者な筆致に乗せられ涙ぐむ場面も多かった。
特に、宦官の長となった春児の妹、玲玲と、後に戊戌の政変によって命を散らしてしまう不器用な青年、譚嗣同との悲恋など、涙に暮れたものだ。
西太后をとても魅力的な女性として描いているのも新鮮だったし、李鴻章将軍が、清末期においてこれだけ重要な人物だったというのも初めて知った。
けれども・・・。物語は戊戌の政変の後、若き光緒帝が幽閉され、西太后が再び権力を握ったところで終わる。
こんな中途半端なところで終わってしまうなんて。
読者はもうすぐ西太后が死に、清が滅びることを知っている。
清朝改革に失敗し、日本や英国に逃亡した文秀やその仲間らはどうなるのか。春児はこれからも宮仕えを続けるのか。そして彼の妹は?登場人物それぞれが宙に浮いたような感じなのだ。
たぶん続編の『中原の虹』を読めば解決するのだろうが、なんかスッキリしない。やはり『蒼穹の昴』の中で完結してほしかった。
ところで気になるのが紫禁城に住まう、おびただしい数の宦官たちだ。
近い将来、城を追放されるだろう彼らは、その異形の身体で生きていなねばならない。
だが彼らは強い。
皇帝を自在に操り、実権を握り、政治を動かした宦官も多い。
話は変わるが、いわゆる『オカマ』と呼ばれる人たちについて、「彼らは女性の持つ細やかさと男性の持つ経営能力を兼ね備えている。ゆえに事業家に向いている」と聞いたことがある。
確かにIKKOさんや仮屋崎先生なんか実業家としても成功しているし、映画監督、芸術家などもそういう人が多い。
成長期に去勢した宦官たちも、そんな優れた能力を期せずして持ち得たのだろう。
世間知らずの皇帝をたぶらかすことなど赤子の手をひねるようなものだったに違いない。
でもそれを許した清の時代は終焉を迎え、科挙、宦官、纏足という中国の3大裏発明も終わりを告げる。
それにしても罪なものを発明したものだ・・・・・。
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