今年のアカデミー賞を総なめにした映画『スラムドック・ミリオネア』は、エンターティメント性に溢れた娯楽作品だった。

路地裏の少年原色の街モンバイで、独特のインド音楽に包まれ、スラム街を疾走する少年たちの動きのなんと機敏で生き生きしているのこと!そしてその可愛らしさ。

子役は実際にスラムに住む子供を使ったそうだが、腐臭のただよう街でゴミにまみれても、彼らの黒い瞳は輝きを失わない。

ストーリーは、スラム育ちの少年ジャマールが、人気番組「クイズ$ミリオネア」に出演し、あと一問で史上最高額2000万ルピー獲得かという所で、警察に捕まる。

理由は、スラム育ちの無学な男が答えを分かるはずがない。きっと不正をしているに違いないというのだ。

線路は続くよそこでジャマールは一つ一つの問題に絡めながらも自分の生い立ちについて話し始める。兄のこと、初恋の人ラティカのこと・・・。

映画自体はとても楽しくダニー・ボイル監督らしいスピード感にあふれ満足したので、主人公ジャマールのバックグラウンドについて、つらつら考えてみた。

彼は幼いころひどく貧しい暮らしだったようだ。兄が掘っ立て小屋トイレ管理をしていたのでカーストとしては最低の「不可触賤民(アンタッチャブル)」かなと思った。だが後にイスラム住民への襲撃で母を撲殺され家を失うので、イスラム教徒というのが分かる。

この悲劇が後のクイズ問題の正解の一つと繋がるのが何とも切ない。

カースト制度はヒンズー教のものだが、異教徒も最下層として差別されると聞くので、さぞ苦労したことだろう。

そして厳しい少年時代を過ごすうちに、兄はヤクザの世界に落ちていくが、温和な性格のジャマールはコールセンターのアシスタントの職を持つ。

このあたりが今のインドを象徴しているようで面白い。

IT産業は最近のものなので、カーストの縛りがなく、最下層の人でも努力しだいで成功するファイナルアンサー?ことが出来る。

特にコールセンター業務は、英語が出来る、人権費も安いということで、インドが脚光を浴びている。ジャマールには妥当な職業選択だ。

貧困、差別、暴力・ストリートチルドレン・人身売買・・・・・過酷な人生においても、汚れを失わず、全うに生きてきたジャマールにとって、「クイズ$ミリオネア」に勝ち抜くことは、「運命」だったに違いない。

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