さて、熱っぽい枕元での何よりの愉しみは読書だ。
横光利一の短編集『日輪・春は馬車に乗って』を読んでいるがこれが実に面白い。もう中毒になりそうだ。
だいたい彼の本は、なかなか書店になく、この短編もやっと見つけたのだ。
この感覚の鋭さ!大正・昭和初めの読者たちはさぞ驚いたことだろう。
特に『機械』
重クロムや苛性ソーダなどの劇薬にあふれた工場の主人と3人の男たち。
熱っぽい頭で読んでいたせいか、工場の劇薬の刺激と臭気で、3人の男がまるで「ちびくろサンボ」に出てくる、バターになった虎のようにごっちゃになってしまうのも妙に気持ちがいい。
そして『春は馬車に乗って』と『花園の思想』
まるで少女雑誌のような甘いタイトルだが、結核の妻との最期の日々を描いたもので、それにはロマンティックな要素はいささかもない。
鳥の臓物が好きな妻は、絶え間ない苦しみのあまりひたすら我がままを言い、暴言を吐く。
夫はそれを受け止める。というよりより積極的にその苦痛をあじわっているというべきか。
そして、そんな苦痛の頂点の時でさえ、妻が元気な頃に味わった嫉妬の苦しみよりましだと思うのだからすごい男だ。
愛する夫を散々責めながらも、やがて妻は清らかに去っていく。
熱っぽい目で見ると、言いたい放題のわがままな妻が、とてもうらやましくてたまらなくなる。
日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (岩波文庫 緑 75-1)
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