世の中は金だ不景気のせいか、私が勤める職場でも、就業時間カットや日数カットが日常的になってきた。

ただでさえ低い給料が下がるのは切実な問題なのだが、まずは生活防御策を考えねば。

ところで、太宰治の『斜陽』の中にこんな言葉がある。

ああ、お金がなくなるという事は、なんというおそろしい、みじめな、救いのない地獄だろう、と生まれてはじめて気がついた思いで、胸が一ぱいになり、あまりに苦しくて泣きたくても泣けず、人生の厳粛とは、こんな時の感じを言うのであろうか、身動き一つできない気持ちで、仰向けに寝たまま、私は石のように凝っとしていた。

旧華族の娘和子が、生まれて初めて直面する厳しい現実だが、今まで苦労知らずでのんびり過ごしてきたお嬢様ならば、そのショックは筆舌に尽くしがたいであろう。

さて、お金の苦労は出来ればしたくないものだが、それでもただ一つ、良い事がある。

金が悲劇を生むそれは本質的な悩み、解決できない苦しみを、一時でも忘れさせてくれる事だ。例えば・・

自分はなんてブスなんだ、しかも能力もないし、何の取り柄もない、最近、歳取って体のあちこちにガタが出てきたし、このまま無駄に歳取っていくだけ、何のために生きているのだか・・・・・。

こんな、考えてもしょうがない不毛な悩みなど、お金の苦労の前では、一瞬に消え去ってしまう。

お金の苦労は実に生々しく現実的でシンプル、だから最強なのだ。

そういえば聞いた話だが、女性の更年期障害の不定愁訴について、裕福な家庭の女性の方が、症状が出やすいらしい。

生活に追われ、四苦八苦している女性は、あまり不定愁訴を感じないという。

そう言えば私もどっぷり更年期世代だが、特有の症状、のぼせ、めまい、憂うつ、肩こりなど感じたこともない。

私の脳の危機管理センターが、「おまえ、それどころじゃねーだろ、とっとと働け!」と、サインを流しているのかも。

そんなわけで、お金の苦労って悪いことばかりじゃないと思う。もちろん程度によるが。

適当な負荷を背負いながら生きていく方が、自分には向いているのさ、と言い訳しながら、生きていこう!

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