伊坂幸太郎氏の『魔王』を読んだ日が、8月30日、衆議院選挙の日だったのは偶然の一致だろうか。

作品冒頭、車内吊りの見出しが、「衆議院解散!」の文字。
久しぶりに会った友人の「今まで選挙に行ったことねえんだよな」「でも今度は行こうと思ってんだぜ。初、だよ、初。初選挙」
「どうして急に」
「あの犬養って面白えじゃんか」って言葉。

・・・犬養って大時代的な名前に思わずズッコケたが、これ、「犬養」の代わりに「政権交代」って入れたら「今」の状況にぴったりだ。

猫三匹ちなみにこの作品は2005年発表。小泉郵政選挙より以前だ。

物語は2部に分かれる。

1部「魔王」は、理屈っぽく、考えすぎるきらいがある安藤兄が、自分に特殊な能力があることに気づく。

ちょうど時代は、「与党支持率低下」「底の見えない不況」「失業率史上最悪」「アメリカ、中国に対する弱腰外交」etc・・・。
国民の不満は高まり、急激にナショナリズムが高まっていた。

そんな時代にあらわれたカリスマ政治家、犬養。
民衆は彼に惹きつけられる。

だがそんな犬養にファシズムの匂いを感じた安藤兄は、自分の超能力を持って、彼に戦いを挑むのだ・・・・。

そして2部「呼吸」では、1部の5年後、安藤の弟で考えることは苦手だが、直観力に優れた弟、潤也が、兄とは全く違うアプローチで、再び戦いに挑もうとする・・・。

この犬養、実は優れた政治家なのだ。
アメリカや中国にもはっきりものを言い、自分の利害は考えず、自分の選挙区や特定企業におもねることもなく、年金制度に力を注ぐ。

そのカッコよさに多くの国民が心酔しているさなか、憲法第九条の国民投票が行われる・・・。

読み終わってまず感じたのは、「魔王」って、安藤兄弟でも犬養でもなく、民衆では?ということだ。

情緒的で熱しやすく冷めやすい国民性。
読んでいる間は「民衆をステレオタイプに描き過ぎでは」と思ったが、今回の選挙結果をみる限り、あながち大げさではないようだ。

そして不況の時、民衆は強いリーダーを求めがちだ。

何事も話し合いで決め、あっちでもたもた、こっちでグズグズ、やたら時間と手間がかかる民主主義よりも、頼もしいリーダーにテキパキと決めてもらった方を希望するようになる。

だがそれが独裁主義、ファシズムの一歩ともなるのだ。

そんな訳で、民主主義とはカッコ悪いものだ。

民主党のみなさん、今までのええかっこしいはやめて、ぜひカッコ悪い政治を目指してください。

魔王 (講談社文庫)
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