ここ最近、伊坂幸太郎ものが続いているので、ちょっと気分を変えて、重厚で地に足のついたものをと思い、(決して伊坂幸太郎が軽佻浮薄という訳ではないが、まぁバランスをとるということで)、横山秀夫の『臨場』と『半落ち』を読んでみた。

まず『臨場』。面白かった!。
八つの物語からなる短編集で、刑事や新聞記者、婦警など、それぞれ立場の違う人たちが事件を担当あるいは遭遇する。

そしていずれの事件も、1人の検視官が見事に解決に導いてくれる、その男が『生涯検視官』の異名を持つ捜査一課の検視官・倉石義男だ。

あえて倉石の周りの人物を主人公におき、客観的に彼を描くことで、より強烈に「カリスマ検視官」の姿を浮き上がらせている。

とにかく倉石の仕事ぶりは凄い、どんな瑣末な事も見逃さない。そしてカッコイイ。

歯に衣着せぬ言動と自分を曲げない態度から、上司からは疎んぜられ、出世コースから外れてはいるが、長年の鑑識から得た鋭い洞察力と豊富な知識、そして何より人の心の機微を知り、人の痛みを理解する、深い人間性を持っている。

あまりのスーパーマンぶりに「出来すぎだろ!!」と突っ込みつつも、そのカッコよさ、そして人情の厚さに惚れ惚れしてしまった。

そして『半落ち』。

以前かなり話題にもなった作品なので、期待して読んでみたのだが・・・

内容は、現職警察官・梶が、アルツハイマーを患う妻を絞殺し自首してきた。
殺人も動機も素直に明かしたが、殺害から自首するまで2日間の行動だけはなぜか頑なに語ろうとしない。
その2日間に何があったのか・・・・・。

物語は、刑事、検事、新聞記者、弁護士、裁判官、刑務官というさまざまな立場の人たちの目線で、梶・元警察官と彼の事件を描いている。
その点『臨場』と似ているが、それぞれの男たちが、組織や世間、上司や同僚、ライバル、家族といった複雑な人間関係を背負いながら、時には自分を曲げ、葛藤し悩みながらも、自分の仕事を成し遂げていく姿には胸が熱くなった。

ただ・・・肝心の梶という男。中心人物のこの男の影が薄いというか、あまりに善人すぎて、心の奥がよく読めないのだ。

この作品は映画やドラマ化もされているので、多少のネタばれは良いと思うが、彼は7年前、急性骨髄性白血病で1人息子を亡くしている。そして今回の妻のアルツハイマー発症。そして妻に請われての嘱託殺人。

その苦しみは察するに余りあるが、殺人後、梶は新宿歌舞伎町へ、ある人物に会いにいっている。

私にはその行動が、あまりにきれい事過ぎるようでならない。

私が梶の立場だったら、その、ある人物の胸元をつかみ『息子も死んで、妻も俺が殺してしまった。なのになぜおまえは生きているんだ!?』と、管を巻くかもしれない。(見当違いとは重々承知しているが)

そんな訳で、『半落ち』は個人的に多少疑問が残ったが、どちらも読み応えがあった。そしていずれも加齢臭がした。

それは不愉快な匂いではない。頼りがいのある、そして懐かしい匂いだ。

臨場 (光文社文庫)
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半落ち (講談社文庫)
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