以前から気になっていた佐々木譲著『警官の血 上巻』を、文庫版が出たのを機会に読んでみた。

この著者の、地に足のついた、かつエンターティメント性に溢れた警察小説は大好きだ。

007物語は、親・子・孫三代と警察官を務めた3人の男の生き様と、彼らの目から見える戦後の日本、時代とともに変わっていくもの、変わらないもの、いわば定点観測による近代日本史とも言えようか。

さてまず初代、昭和23年、帝銀事件が世間を驚かせていた頃、東京に住む結婚したばかりの安城清二は警察官を志す。理由は身も蓋もない話だが、食べていくため。

このあたりの描写がうまい。日本全体が貧しかった頃の、新婚夫婦の慎ましやかな暮らしぶり、食糧不足のため、やつれていても健気にお互いを思いやる夫婦の姿に心が染みる。

やがて、誠実で人情味あふれた彼は任務に精勤し、仕事仲間や地元の人からも慕われるようになる。

闇市、浮浪者、戦災孤児、愚連隊、女娼、男娼、ヒロポン中毒etc・・・。
警察の仕事は多岐に渡り、激務であった。

ちなみに戦後の混乱期のこの時期、警視庁の全警察官には拳銃が支給されている、S&W45口径、重さは本体だけで千二百グラム。
常に携帯が義務づけられ、必要とあれば躊躇なく撃てと何度も通達されているのが今と違って興味深い。

そして昭和32年、35歳になった時、清二は念願であった駐在所勤務になるが、3ヶ月後、駐在所の近くの天王寺五重塔が炎上した夜、現場からふいと消え、早朝国鉄の線路で死体となって発見される。

実は彼は、お宮入りしたある殺人事件の犯人を追っていたのだが、それを知る者はいない。

五重塔炎上のさい、持ち場を離れていたことから、殉職と認められず警察葬ともならず、残された妻と二人の幼い男の子は、その後貧しい生活を余儀なくされる。

亡き父の同僚たちの援助によって高校を卒業した長男民雄は、同じ警察官を目指す。幼い時から父の制服の背中を見て育った彼は、地元の人々から慕われている姿に憧れていたのだ。できれば同じ、駐在所勤務を望んでいた。
それともう一つ、父の死の真相、ろくに調査もされず、「事故死」とされた父の死について知りたかった。

昭和42年、警視庁警察学校に入る民雄だが、彼には父以上に過酷な人生が待ち受けていたのだ・・・・・。続く。

警官の血〈上〉 (新潮文庫)
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