佐々木譲著『警官の血』下巻を読み終えた。

実は途中まで、この作品、読みあぐねていたと言うか、やや退屈だったのだ。

それは物語があまりに淡々と進んでいくのと、主人公たちのキャラの希薄さ、何を考えているのかわからない存在感の薄さからだ。

上巻の時、「果たして2代目警察官、民雄は、夢だった駐在所勤務になれるだろうか!?」などと書いていたが、下巻の冒頭、いきなり彼は駐在所勤務に就いている。

それから彼は殉職するまでの7年間、忠実に勤務をこなす。
精神的にも安定し、家族との関係も回復してきた。

まさに順風満帆な人生だ。

だから尚更民雄が、父の死の真相を執拗に調べているのに違和感を感じるのだ。

彼の父親は殉職ではないが、さりとて不名誉な死という訳でもない。

その動機の希薄さは3代目、和也にも通じる。

あまり父と良い関係を築いてなかった彼が、名門大学を出ながらノンキャリアの警察官になった理由も希薄だし、その後の彼の行動もずい分淡々としている。

和也はその血筋を買われ、若いころの父とは真逆の任務を言い渡されるのだが、彼は、かつての父と違って思い悩む様子もなく、粛々とその任務をこなしていく。その様は、時に冷血人間のようだ。

だがラスト、祖父と父の死の真相を知った時、和也は彼らの呪縛から解放される。それと共に、淡々としていたかに思えた物語に、一気に温かい血が流れるのを感じる。

ああ、これが『警官の血』なのか・・・・。

正義感と要領の良さと、温かさを兼ね備えた警察官、安城和也の誕生である。

警官の血〈下〉 (新潮文庫)
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